8 タクティクス=ポジショニングの技巧


content by Ben Tan

Reviewed by Jacob Palm and Lock Hong Kit

 

 アップウィンド・レグ

 
 アップウィンドレグは挑戦的で、レースの大部分を占める。スピード、戦術、戦略に関してアップウィンドレグに強いセイラーになることがまず重要だ。筋力と知力とを同時に働かせなければならない。



イーブンでスタートできるように、そしてもし可能なら、少しでも前にでるように努力しよう。そしてファーストビートの4分の1は死にものぐるいで頑張ろう。集団から抜け出し、クリアエアを手にすることだ。

グレン・バーク

最初の100m

 スタート直後最初の100mの間、優先事項は次の通り:
* 第一列にいること
 これは全力でハイクアウトし、速くセイリングすることを意味する。スピードに加えて、上らせる能力も、風下艇からの裏風を防ぐために役立つ。
* できるだけ早くシフトをつかみ同調させること
 間違った方向へセイリングしているとしたら、いくら速いボートスピードを保っても意味はない。スタートしてスターボード・タックでヘッダーを受けるようなら、できるだけ早くタックする。もし、ロバート・シェイド(レーザー・ワールド5回優勝、1996年オリンピック金メダル)のスピードがあれば、先頭列から飛び出してフリートを横切るようにタックすることもできる。
 そんなスピードがなければ、限界まで上らせて(ピンチ・アップ)、風上艇にバックウインドを与えてタックするように仕向け、そのボートが道をあけたらすぐにその後に続く。あるいは、風上艇に「タックしてもいいか?」とたずねる。もし両者とも明らかにヘッダーを受けていれば、風上艇にとってもタックすることは同様のメリットがある。そしてルームがあればタックをするだろう。もし、なければ彼は自分の風上艇にタックの許可を求め、これが繰り返されていく。
* クリアエアの中を走ること
 スタートで埋もれてしまったら、できるだけ早くクリアエアを取り戻す。ポート・タックにタックすることで先頭の列のボートによって生じたリフトを得ることができる。もしスターボードタックでリフトになる状況であれば、タックし直して先頭の列にある次の隙き間に戻る。クリアエアを得るためにタックをした時には、もう一手先を考えることだ。風上を見て、自分がスターボード艇の作り出す乱れた風の中から、ポート艇のウィンドシャドウへとタックしてしまうようなことがないことを確かめる。

クリアエアをセイリングする

 セイルの周辺には乱流のエリアができる。クローズホールドでセイリングする時、ブランケット・ゾーンすなわちウィンドシャドウとなっている所と、乱れた風の裏風を受ける所ができる(図8-9)。ブランケット・ゾーンは真の風ではなく「見かけの風(アパレント・ウインド)」の延長上におおよそ5艇身の長さまで広がる(マストの高さの6倍と見積もる人もいる)。乱れた風(バックウインド裏風)の領域は、ボートの1艇身位風上から、後方3-5艇身に広がる。風下艇の風見(見かけの風の方向を示す)がまっすぐに風上艇に向いてていれば、風下艇はブランケットされているということになる。
 ブランケット並びにバックウィンドの領域は、カバーリングやハーディング(後述:フリートの方に追いやる)などによって、他のボートをコントロールするのに使うことができる。乱れた風の中をセイリングしている時には、ボートスピードも上り能力も共に失われる。

8-9 ボートの周囲の乱れた空気。ブランケット・ゾーンとバックウィンド・ゾーンの大きさは風の強さによって変化する

 したがって、タックして離れるか、あるいはウィンドシャドウをフッティング(ベアして風下を通過する)して、クリアな風の中に入るようにすべきである(図8-10)。望ましいタック(リフト、あるいは好ましいコースのサイドに向かってのタック)ではなく、クリアエアを得るためにタックを余儀なくされた場合、自分のレースプランに戻るようにすぐにタックし直す事を忘れてはならない。
 風下艇が裏風を受けるほど近くにいない時には、高さを保つ、あるいはもっと高く上らせて(ピンチする)ことで風下艇から離れる。多くの者はこれを難しいと考え、風下側へ落としいってしまう傾向がある。これを避けるためには、風下艇を見ることを止め、自分のボート・スピードに集中することだ。バウの前の波を注視することによって風下艇を見なくなり、同時にステアリングもよくなる。練習の時にこれを試してみよう。失敗して裏風の中に入ってしまったら、実際にはそこからピンチして抜け出すのは不可能になるから、タックするか、風下側に向けて即座にフッティングすべきだ。

8-10 クリア・エア 黒いボートは乱れた空気の中にいるが、落として風下の裏風側を横切って行くか、あるいはタックするかを選ぶことができる

考えるセーラー−アップウインドの戦術と戦略

自分自身のレースをセイリングすること
 ひとたびスタート直後の100mのドラッグレースが落ち着いたら、いよいよ戦術と戦略の出番である。そのレース特有の風のパターン、潮流、波、そして地理的条件のセットに対して完璧な戦略を備えたボートは、マークを回る理想的なコースをセイリングし、可能な限り最短の時間でフィニッシィング・ラインを横切る。自分自身のレースをセイリングし、新しい情報や修正情報(たとえばよそうしていたよりも早くシーブリーズがなくなってしまうなど)がない限りは、自身の戦略から逸脱しないでいることが大切だ。
 セーラーが自分の戦略からはずれてしまう主な原因は、フリートの他艇によるものと、自暴自棄になってしまうことの2つである。フリートレースでは、自身の戦略に従ってセイリングしながら、フリートの中でクリアエアを得らる場所に位置することが理想である。クリアエアを得るためにタックする必要があればタックするが、その後再びタックし直すのを忘れないことだ(その前に間違ったタックをしていない限り)。

ポジショニング
 戦術とは常にポジショニングを意味する。自艇に対する競争相手の位置は、図8-11のように4つの場合に分けて考えられる。この図では、2艇が同タックになっている。つまり、自艇(黒いボート)かあるいは競争相手(白いボート)のいずれかがタックしてこの位置に入ってきた時にこの4つのうちのいずれかの位置関係が生じる。
 

8-11 ポジショニング ゾーンの名称は、黒いボートに対する白いボートの位置を説明している

 全てのタックには十分に考慮された理由がなくてはならない。単に痛む太股を休めるためだけにタックをしてはならない。タックすることによる他艇との相対的な位置取りは以下の事項によって決定される:
* 次のシフトがリフトかヘッダーか
 リフトでは風上艇がゲインし、ヘッダーでは風下艇がゲインするので(図8-12)、戦術的にはリフトが来る時はフリートの風上に、ヘッダーが来る時には風下にいることが望ましい。

8-12 左:風上側の黒いボートはリフトでゲインする。右:風下側の白いボートはヘッダーでゲインする
 

* コース上の好ましいサイドがどこか
 左側が好ましければ(漸進的シフト、永続的シフト、より強い風、有利な潮流、小さな波など)、フリートの左側にいたくなるだろう。

 反対タック艇(あるいは反対タックのフリート)にアプローチする場合のオプションについて考えてみよう:

・近づいてくるボートの風下前方に入るタック

 
 近づいてくるボートよりも自分が前にいる時、自分(黒いボート)は近づいてくる艇のバウを横切る前にタックするか、横切ってからタックするという選択ができる。横切る前にタックするのは以下の場合である:
*振れる風パターンの中で、相手はリフト、自艇がヘッダーにいる場合。早めにタックして相手の風下側に入っておけば、次のシフトでヘッダーを受けた時にゲインすることができる。
* 競争相手がコースの好ましいサイドに向かってセイリングしている時(たとえば、その方向に向かう漸進的シフトの場合)、早めにタックして相手の風下側に入ることで、相手よりも好ましいサイドに近づくことになる。

・近づいてくるボートの風上前方に入るタック



接近してくるボートよりも前にいる時、以下の場合には相手のバウを通り過ぎた後にタックする:

* 左右に振れる風パターンの中で、相手がヘッダーにいて自艇がリフトにある場合。この時、リフトの中でタックすることによって、さらなるゲインを犠牲にしても、リードを守るために相手と一緒の位置(つまりカバーできる位置?)にとどまることができる。
* 相手がコース中の好ましくないサイドに向かってセイリングしている時。相手のバウを越した後にタックすれば、さらなるゲインを犠牲にしてもリードを守ることができる。
 以上のいずれの場合も、相手と一緒の位置にとどまるために、望ましい戦略、すなわちリフトの中を好ましいサイドに向かってセイリングするという戦略からは逸脱してしまう。戦術(相手をカバーできる位置にとどまること)と戦略の双方を両立させる方法は、相手の風を奪う位置でタックすることでタックを強要することである。相手がタックをしたらすかさずタックを返し(タックが遅れてしまうと相手にクリアエアを与えてしまう)、そして自分自身のレースプランを継続する。

・近づいてくるボートの風上後方でのタック



相手の後ろにいる場合、以下の状況ならば相手のトランサムを横切り風上後方(相手の裏風の外で)でタックしよう;

* 左右に振れる風パターンの中で、相手がリフト、自艇がヘッダーにいる時。タックすることで振れる風に合わせることができる。相手のトランサムを横切る前に早くタックをしすぎると、乱された風の中へタックすることになってしまう。
* 自艇がリフトにいて、レイラインに達してタックをする場合。
* 相手がコース中の好ましくないサイドに向かっているが、相手と一緒の位置にとどまりたい場合。相手のトランサムを横切った後でタックをすれば、相手よりも好ましいサイドに近くなる。

近づいてくるボートの風下後方でのタック


 
 近づいているボートの後ろにいる時、他に選択肢がない場合(たとえば上マークをオーバーセイルしている場合)以外は、相手のウィンドシャドウの中へタックしてはならない。相手のトランサムを横切る前にタックしたければ早めに行うこと。これにより、相手のウィンドシャドウよりも前にいることができる。横切る前にタックした方がよい状況とは以下の場合だ:
* 左右に振れる風パターンで、相手がリフト、自艇がヘッダーにいる時。次のシフトでヘッダーを受けた時、相手の風下側に位置することで相手よりも多くのゲインを得ることができる(ヘッダーにいると気づいたらすぐにタックしなければならない)。
* 相手がコース中の好ましいサイドに向かっている時。早めに相手の風下でタックすれば、相手よりもコース中の好ましいサイドに近くなる。

レバリッジ
 これはクローズホールドの2艇の間隔を指す。離れれば離れるほどレバリッジ(てこの力)は大きくなる。前述の4パターンのシナリオでは、2艇の間隔には触れていないが、相手との間隔は、自艇が相手の一方のサイドにいる優位性にどの位確信があるのか、そしてその優位性がどの位大きいのかによる。
 たとえば、風が左にシフトするだろうとほぼ完全に確信できる場合、相手よりも可能な限り左側の位置をとるべきだ。シフトが来たら(ヘッダーを受けたら)ゲインは限りなく大きくなる(図8-13)。しかし、セイリングにあっては100%確実なことはほとんどないから、フリートから大きく離れてしまうことはお勧めできない。レバリッジが大きくなるほど、潜在的なゲインも大きくなるが、リスクもまた大きくなるのだ。

8-13 黒いボートは、白いボートW1よりも白いボートW2に対してより大きなレバリッジを持っている。ヘッダーを受けた時、黒いボートは白いボートW1に対しては1挺身、白いボートW2に対しては2挺身ゲインする

 賭けをする者は、最大限のレバリッジを得るために全コースを通じてレイライン上をセイリングするだろう。このバンギング・コーナーはリスクの高い戦略である。予想が正確であれば多くのゲインを得ることができるが、間違っていれば最後尾でフィニッシュすることが確実になる。リスクが正当化される唯一の場合とは、失うものが何もない、つまり自分がすでにフリートの後方にいる場合だけだ。一連のレースで勝利をおさめるためには安定した成績が要求され、安定した結果を出すためには保守的な戦術こそがとるべき道である。
 ボートが相手のバウを越えるまでリードは確実ではない。ひとたび前に出たら、リードを確実にするため(つまりゲインを明らかにするために)に相手に向かってタックをし、レバリッジを減らす。ただし、あまり保守的になってはならないし、極端に保守的になりすぎて、ライバルに近づきすぎるとシフトを失ってしまう。自分がフリートレースをしていること、そして自分のレースをセイリングすること(自分の戦略に固執すること)によってフィニッシュラインに早く到着できることを忘れてはならない。きちんとした戦略を持っていれば、カバーされずに、可能な限り最速のコースをセイリングすることが有効で攻撃的な戦術であり、攻撃は最大の防御のひとつでもある。
 コースのどちらのサイドが好ましいか決めかねることもよくある。このような場合、「コース中央をセイリングする」ことが最善であり、コースの中央の近くでシフトを拾いながらセイリングする。左側が好ましいコースではないかと疑っているが、確実でない場合にはコースの中央よりやや左側をセイリングする。これによりシフトの優位性を保ちつつフリートに対するレバリッジを減少させることができ、リスクも少なくなる。

成功するためには、数学者の統計技術、科学者の分析能力、殺し屋の客観的メンタリティが必要だが、おそらく最も重要なのは会計士の保守主義だ。私のアプローチは、シンプルな数字ゲームである:7回のレースがあり、一つのレースにつき9つのレグがあり、破らなければならないボートが一定数ある。レースの間に、私はいつも前を行くボートから少し離れ、そこで少しゲインしたらフリートに戻るようにしている。
 フリートにはほとんどの場合ギャンブラーがいて、かれらの特徴は一か八かの賭けをしてレイラインをねらうことである。うまく行けば一時的にヒーローになれるが、多くの場合勝算は低い。

グレン・バーク

 スピードテストのわなにはまってはいけない。
ロッド・ドーソン〈ボートスピード上げることよりも、戦術に忠実にいることの大切さを語って〉

・交差するタックの不文律のルール
 反対タック艇にアプローチする時、横切るかタックをするかの判断は戦略・戦術に基づき瞬時に行う必要がある。ひとたび方針が決まったら次のステップは、これを持続することだ―相手は戦略を妨害するためにタックをして風を奪ったり、リーバウの位置に入ることができる。アプローチするボートに自分が望んでいることさせるように促す方法を考えてみよう。
 望ましいと考えているタック(通常はリフトを受けるタック)にいて、そこにとどまりたいと仮定しよう(もしそうでないのなら、接近してくるボートに出合う前にタックをしていなければならないはずだ)。

ポートタックでのアプローチ



 スターボード艇のバウを横切ることができるかどうかわからない場合、「越えてもいいか?(Can I pass ?)」と聞いてみよう。多くの場合、相手は頷くであろう。その理由は、相手艇は望ましいと考えたタックにいて、そこに居続けたいからである。「だめだ」と言うことは、リーバウにしてくれと頼むのとほとんど同義である。もちろん、バウを横切ることが明らかに無理ならば、行うべきことは、バウを横切る許可をえる代わりにベアして、トランサムを横切ることである。
 もし、前を横切ることができるどうか聞いて、相手が即座にだめだと言った場合は、相手のトランサムの少し後ろに落として、自分の望むタックで走り続けよう。タックしたり悪いタックにとどまることに比べて、そう多くの距離を失うことはないはずだ。しかし、相手の返事が遅すぎてベアできない場合には、リーバウの位置へタックし、相手にタックを強要する以外に方法はなくなる。しかし、これはお互いのメリットにならず、双方が間違ったタックとみなす位置にいることになってしまう。

スターボードタックでのアプローチ


 
スターボードタックにいる時は権利艇である。望ましいタックに居続けるために、横切ってもいいかと訊ねるポートタッカーに頷く(あるいは「そのまま行け《Hold your course !》」と叫ぶ)。必要ならば相手艇のトランサムの後ろに少し下がること。これはリーバウにされたりスラム・ダンク?されるよりもダメージが少ない。さらに言えば、相手艇が君が間違っていると考えるタックをセイリングし続けたいと考えていることに安心すべきだ。それだけのために他のボートをスターボードにしてはならない?。
 衝突コースにあるポート艇が、君の存在に気づいていないように見えたら、できるだけ早く「スターボード!」と叫ぶ。早めに気づかせることによって、相手艇が落とすよりもタックすることを選べば、相手艇は君が裏風を免れるような遠い風下側でタックするだろう。ぎりぎりの位置で「スターボード」と叫ぶのは相手を驚かせ、君のすぐ前でパニックに陥らせることになってしまう。
 (スターボード・タックで)ヘッダーの中にいるか、またはコースの好ましくない方向に向かっている時には、自分がポートにタックする前に、接近するポート艇をスターボードタックへとバウンス(跳ね返る)させたい(これは他のボートが競争から外れており、君たち2艇だけで争っているレースの場合にだけ行うこと)。相手にタックをさせるように「スターボード」と何度も(ヒステリックに)叫び、相手が自分のバウを横切るのは不可能だと考えるようにさせ、相手がタックをしなければ衝突コースをそのまま保つつもりだとわからせる。
 こうすると相手艇は君をリーバウにする位置でタックする気になるだろう。相手艇がタックしたら、すぐにポートにタックし、好ましいサイドに向かってリフトの中を走るのだ。もちろん、相手艇(ポート艇)が賢ければ、君が何をしようかとしているか理解するだろう。そして、相手艇は少し後退し、好ましいサイドを継続できるように、あるいはリフトにとどまれるように、君にそのままのコースを保つように言ってくる(ボートが接近しすぎたらそうしなければならない)。

・自由にタックできることの重要性
 必要な時、たとえばヘッダーを受けた時などに、いつでもタックできることが大切である。風上側の背後(たとえば風上後方の位置)に他艇がいたら、タックをして相手のバウあるいはトランサムをクリアーすることはできず、以下のいくつかのオプションしかない:
* 風上(後方)艇が自艇の裏風に入るように風上にピンチする(ぎりぎりまで上らせる)。そうすれば相手はクリアエアを得るためにタックするしかなくなるだろう。彼が行ってしまえばタックできる。
* もし両者がスターボード・タックだったら、風下へ落とし(あるいは少しスピードを落とし)、風上(後方)艇ののトランサムよりベアできる十分なスペースがあればタックをする。他のボートのトランサムを横切ることは有効ではないと思われるが、自艇がヘッダーを受けていたりコースの好ましくないサイドに向かっていることが確実ならば、最終的にはゲインを得ることになる。(逆に、もし自分が風上(後方)艇で、風下艇が君のトランサムの下へ落とそうと頑張っている場合には、自分が正しい方向に向かっているかもう一度確めること)。
* もし、両者がポート・タックだったら、風下へ落とし、十分なスペースができたらタックする。タックする前に「タックするぞ!」と風下側のボートに警告を与えておくのもよいだろう。タック後にクローズ・ホールドまでベアした後に初めて、スターボード・タック艇の権利が得られることを心に留めておくこと。
* 風上(後方)艇に「タックしてもいいか」と聞く。両艇ともにヘッダーにいれば、タックをすることは相手にとっても同様優利(風が左右に振れていると仮定すれば)となる。相手がこれを理解していればタックをするだろうから、君も相手の裏風の中に入らないように1艇身の間隔を空けた後、追随する。もし相手が現在のコースを保ちたいのであれば(つまり、相手がヘッダーとは考えていない場合、あるいはなんらかの理由でコースの一方の側をセイリングしている場合など)、君の質問に「いいよ」と答え、(必要ならば)君よりも少し後ろに下がるだろう。彼は、君が自分が間違っていると思うタックになると考えるから許可してくれるのだ。「だめだ」と言った場合、相手は君がピンチすることで裏風の中へ入れられることを自ら招いているようなものだ。

・カバーリング
 他艇に対してのリードを守るためには、カバーリングの戦術を使う。先行艇は、追随してくると上マークの間に位置して(通常の場合)、後続艇を同タックにいさせることでカバーする。これによって後続艇がどんな優位性(たとえば好ましい風のシフト)を得たとしても、自分も同様にこれを受けることができる。カバーリングの反対はスプリット・タック(分裂するタック)で、これは先行艇と後続艇がコースの異なるサイドに反対タックで向かうことだ。ボートが離れていれば、後続艇がよいブローや好ましいシフトを得て先行艇を追い抜こうとした場合に、先行艇はこれに対し何もすることができない。カバーリングにおいては、先行艇が望む時にはいつでも後続艇にタックさせることができる場合をのぞき、理想的なパス(すなわちマークを最速で回航するコース)よりも後続艇に対する戦術的優位性が優先される。
 カバーリングする先行艇は、後続艇にタックするよう仕向ける場合以外は、後続艇の風を乱してはならない。ほとんどの場合、クリアエアがあれば、後続艇はカバーリングしている先行艇と同じタックにとどまろうとするから、先行艇にとっては(カバーリングが)楽になる。先行艇は後続艇の風上あるいは風下のいずれの側からもカバーリングできる。そして、いずれの位置からも、カバーリングしている先行艇は後続艇にクリアエアを与えることも(ルース・カバーあるいはオープン・カバー)、乱れた風を与えることも選択できる。これらのポジションの重要性について見ていこう。


先頭にたったら、リスクを最小化しながらもシフトをプレイし続けること。

ロッド・ドーソン

風上側からのカバーリングで、後続艇にクリアエアを与える場合


 
十分に前を横切った後、カバーリングしている先行艇(黒いボートで示される)はそのままセイリングし、後続艇が自分のウィンドシャドウから出てからタックする(ルース・カバー)。このポジションは以下の場合に使われる:
* 後続艇が近くにいて、一方のレイラインに向かってセイリングしている時。
* 後続艇が間違った方向、つまりヘッダーを受けながら、あるいはコースの好ましくない方向に向かってにセイリングしている場合。相手が間違ったタックで走っているという確信が強いほど、後続艇と同タックにタックする前により長くセイリングすることができる。

風下側からのカバーリングで、後続のボートにクリアエアを与える場合


 
後続艇のバウを横切る前にカバーリングする先行艇はタックをする。このポジションは以下の場合に使われる:
* 風が左右に振れており、先行艇がヘッダーにいてリフトに向けてタックする時。次のシフトがやってきたら(両者にとってヘッダーであるような)先行しているボートはさらに前に出ることができる。
* カバーリング艇が上マークのレイラインに達した時(この時、後続艇はオーバーセイルしている)
* 後続艇が向かっている方向がコースの好ましいサイドである場合。

風上あるいは風下側からのカバーリングで、後続艇を乱れた風に入れる時


 
カバーリングする先行艇が後続艇のすぐ風上でタックをするか、あるいはリーバウの位置で後続艇に裏風を送るのは以下の場合に使われる:
* 後続艇にタックさせて、フリートの残りのボート群の方向に追いやりたい時(ハーディング=群れを追い集めるの意)、あるいはレイラインの近くに追いやりたい時。
* カバーリング艇が自分のタックが優れていることがはっきりわかっいて、タック競争(タッキング・デュアル)を始めたい時。
* カバーリング艇がスピードでは劣っているがタックは勝っていて、風上ぎりぎりでカバーリングすることで、乱れた風を後続艇に送りスピードを落とそうとしている時。
 カバーリング艇が後続艇の風上ぎりぎりでタックをするか、あるいはリーバウの位置にタックするかは、多くの場合、後続艇のバウを問題なくクリアーできるかどうかによる。風上ぎりぎりのポジションをとる場合は、シフトがリフトかヘッダーかによって、先行艇がロスすることがあることを忘れずに。

 風上後方からのカバーリング


 
カバーリング艇が相手艇のバウを横切ることができないとしても、トランサムの直ぐ後ろを横切り風上後方の位置へタックすることで相手のボートをコントロールすることができる。これはカバーされた艇のタックする自由を奪い、マークに向ってタックすることを妨げる。マークを過ぎるまでカバーした後、カバーリング艇はタックし先にマークを回航する(図8-14)。



8-14 上マークを過ぎるまでボートをホールドする。黒いボートは白いボートの風上背後の位置へへタックして入り、両ボートがレイラインを越えるまで白いボートがタックするのを防ぐ。黒いボートは白いボートの裏風の中にいるので、そう長い間このポジションを維持することはできないだろう。この戦術を試す前に、マーク付近が混雑してないのを確認しておくこと

 カバーリングするボートは他艇の裏風を受けやすいから(たとえまだ裏風の中に入ってなくとも)、このポジションを長い時間保持することは不可能だ。したがって、このカバーリングはレイラインからあまり遠くでは行わないこと。
 他のボートをカバーリングすることで自分のリードを守ろうとする間、自分のレースの戦略を忘れてはならない。リードを保つためにフリート内でのポジションには妥協するということがないように、シフトと同調し、カバーリングしながら競争相手をコースの好ましいサイドに導いていく。
 フリートレースでは、戦術的な理由がない限り(たとえばそのシリーズの勝者を競っているのが自分たち2艇だけで、フリートの中での順位よりもむしろ2艇の勝敗が問題になる時)、リーバウや他のボートの風上ぎりぎりでタックするのは止めよう。特別な理由なく他艇に裏風を与えたり、風を奪うことは、将来相手がそのチャンスをつかんだ時に仕返しされることになるだろう。タックする前に、タックして他艇の風の中に入らないよう確かめよう。これは特にタックの理由が風のシフトやその他の戦略に対応するものではない場合に当てはまる。もし他艇からはっきりわからないような理由で、他艇の鼻先でタックしたような時には、ひと言あやまっておくのがよいだろう。

・カバーをブレイクする
 自艇がカバーされてしまい、そのカバーが完全なものでなかったら(すなわち、自分の風が乱れていない時)、このカバーをブレイクする方法がいくつかある。
* シフトを利用する
 よい戦略を持っており、シフトを読むことに自信があれば、カバーをブレイクする一番よい方法、そして好まれる方法は自分のレースをそのまま継続することである。これによって最高のスピードでセイリングし、フリートの中での自分の順位を上げながら、自艇と自分をカバーしているボートとの間隔を狭めることができる。
* カバーリングしているボートを不利な立場にさせる
 カバーリングしている艇はこちらがタックをすればいつでもタックをすることを利用して(図8-15)、障害物、ウィンドシャドウ、逆向きの潮の流れ・波などを使ってカバーリング艇を不利な立場にさせる。カバーリング艇は不利なポジションへのタックを(気付いていれば)選ばないだろうから、カバーリングもここで終わる。あるいはカバーリング艇がフリートの中でのポジションを犠牲にして、君に対する戦術的な優位性を優先させる場合もあるかもしれない。

8-15 カバーリングしているボートを不利な条件に導く。黒いボートは、自艇はその中に入らないように確かめながら、白いボートをホール(島、あるいは投錨している大きな船によってできた風影など)へ誘導する

* タックの優位性
 自分のタックの技術に自信があれば、連続していくつかのタックを行うことでタック競争を始める。君とのタック競争にはまり込んでしまえば、(軽風のロールタックでない限り)フリートの中でのポジションは2艇とも悪くなる。そこで相手はこのまま君の近くにとどまるかどうか考え直すだろう。

・複数のボートをカバーリングする
 1艇に対するカバーリング技術をマスターしたなら、同時に複数のボートをカバーリングすることに進もう。これは簡単ではない。ここでの目標は:
* 自分がカバーリングしている複数のボートを同じタックに「ハーディング(群に追い集める)」する。だれかがタックしてこの群の中から出ようとしたら、彼の風を奪い、再度タックを促し他のボートと同じ方向に戻す(図8-16)。彼らを一緒にまとめておくことで、彼らの動きが見やすくなるだろう。同様に、一群の中の同じタックにいるボートをブランケットしないこと。さもなければ相手はタックをしてしまいカバーするのが難しくなる。
* 一群の中の左右両端にいるボートと上マークで形づくられた三角形の中に位置すること(図8-17)。

8-16 ハーデイング 黒いボートは3艇の白いボートをカバーリングしている。その中の1艇がタックしたら、黒いボートはタックしたボートの風上ぎりぎりにタックし、相手が再度タックするようにしむける

8-17 フリートに対するリードを守る 黒いボートは、上マークと左右両端にいる白いボートとで形作られた三角形の中に自分を置く