7. 潮流
content by Ben Tan
reviewed by Jacob Palm
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空気と同じく水も流体だ。水もドラッグ(抵抗)や圧力勾配に影響され、乱流となったり、薄層状(ラミネア)にもなる。水と空気はこれ以外にも同じような性質を見せるが、レースが行われるのは水面だから、風の場合のような詳細なレベルまで潮流を議論する必要はない。ここでは、いくつかの潮流の特徴と、これらがセイラーに対して持つ意味に触れておこう。
潮流の特徴 原動力
川で水が勾配の高い所から低い所へ流れるように、月と太陽の引力が潮の干満を起こし潮流を動かす。また、世界中の水面を強く絶え間なく吹き渡る風も潮流を動かす。
通常、満潮の時に潮流は一方向に流れ、干潮の時に逆の方向に向かう。潮汐表は、前もって干満の時間を教えてくれる(1日に2回ずつ干満がある)が、その時間帯に潮流がどちらの方向に流れるのかは地元の人に聞く必要がある。
流れが干潮・満潮で逆転するので、レースがその合間にあるなら、いつ干満が起こるのかに特別の注意が必要である。方向の変化は前もって示された時間にちょうど起こるとは限らない。これは、水の推進力の影響もあるし、レース会場から何キロも離れた所の潮汐表が使用されている場合もある。
時刻の他に、潮汐表は水位を教えてくれる。干潮と満潮との差は、潮流の強さに関する目安となる。この差が数メートルにもなる場所もある。
1カ月の間には、潮の干満が通常よりも強いか弱いかにより、それぞれ大潮と小潮が起こる(コラム参照)。強い潮流のある場所でのレースであれば、水上に出る前に潮汐表を素早く確認することが大事である。
水のない所ては当然セイリングすることは不可能だ――イギリス・ノーフォークにある「ザ・ウォッシュ」では、満潮の前後それぞれ2時間に限ってセイリングが可能だ。この4時間以外は、水は完全になくなってしまう。この写真を数時間後に撮ったとしたら、泥の平地だけが見えるだろう。4時間のレースの間、干満のあるエリアでレイラインを見極めるのは非常に困難であり、もし、沈するようなことがあるとひどい目に遭うことになる。
潮の干満
・潮の干満は、月と太陽の引力が地球の表面を引っ張ることで起こる。太陽の引力は、月の引力の約半分しかない。
・海面は、2カ所で膨張する。1つは月からの引力が最大となる月に最も近い地点Aで、もう1つは月の引力が最小となる地球の反対側の地点Cだ。したがって、地球が自転する間、地球上の各地点は2つの満潮(地点AとC)と2つの干潮(地点Bとその反対地点)にぶつかることになり、このために水位は半日単位で変化する。月は毎日約1時間遅れて頭上を通過するので、この2回ずつの干満のサイクルは24時間56分になる。
・赤道に対して月の回転軸が傾いているので、赤道のどちら側でも23度の振れが起こる。これによって干満の膨張は非対称となる。この日々のリズムが、前述の半日リズムと重なりあって、満潮・干潮の高さは日々異なる。
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・14日ごとに、月は地球に対して太陽と同じ方角(新月)、あるいは太陽の反対側の方角(満月)に来る。いずれの場合も、月と太陽からの引力は結び付き、この合成力が大潮を生み出す。 ・地球に対して、月と太陽が直角の位置になった時、それぞれの引力は打ち消し合い、小潮となる。
水深
地表抵抗によって風速が落ちるのと同じように、水底の摩擦はそれに接する潮流を弱める。これは、潮流は浅い場所の方が深い場所よりも弱いということを意味する(図7-1)。
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図7-1 水深が潮流の表面に与える影響レースの際には、以下の簡単なルールを覚えておこう:
*潮流が逆行している時(すなわち、潮流が次のマークへの進行を邪魔する時)は、浅い場所(例:浅瀬、海岸線等)をセイリングし、素早く海峡を横切る。
*有利な潮流の場合(すなわち、潮流が次のマークへボートを近づける時)は、深い場所をセイリングし、浅瀬を避ける。
レースエリアの水深はどの位か? これに関しては海図が役に立つ。海図の等深線を参考にすること。レースコースの海底が平らであれば潮流は均等になるはずだ。ボトルネック
水流はボトルネック(水路の狭まった所)、そして海峡や河川が狭まった部分を通過する際に加速する。なぜなら、広い水路と同じ量の水がこのボトルネックを通過しようとするからだ。
潮流を横切るように連続する砂州がある時、これは「隠れたボトルネック」となる(図7-2)。この断面図のように水はほかより小さな部分を通過することになるから、浅い場所を通過する時に加速する。
図7-2 連続した砂州はボトルネックと同じで、潮流はより強くなるこれは、先に説明した「潮流は浅い場所を流れる時弱まる」というルールの例外である。しかし、こうした現象が起こるためには砂州は連続的でなければならず、さもないと水は砂州が途切れている場所を通過してしまう。このような潮流を横切って連続する砂州はかなり稀である。
曲がり角と渦巻
曲がった水路では、潮流は遠心力によっては凸状の岸辺(屈曲の内側)よりも凹状の岸辺(屈曲の外側)の方が強くなる(図7-3)。凹側では強まった潮流が水路を深く削り、潮流が弱い凸側では堆積物が沈殿しやすくなり、渦巻が起こることもある。これらが曲がりくねって進む川をつくりあげる。
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図7-3 曲がった水路での潮流の変化。潮流は凹状の岸辺(屈曲の外側)ほど強くなる不規則な海岸線では潮流の渦巻ができる(図7-4)。この部分は水深が浅くなる傾向がある。
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図7-4 変形した海岸線にできる渦巻潮流と風の相互作用
全く風のない水面を流されていることをイメージしてみよう。1ノットの潮流では、潮流の方向とは逆の方向から1ノットの風を体感するだろう。この「潮流風」は潮の流れが強い場合にのみ重要となる。
水と風の流れが逆方向の場合(つまり潮流風と真の風が同じ方向の時)、潮流風が真の風に加わり、海面では見かけの風が増したように感じられる。
このために波の大きさも増し、海面はチョッピーになる。潮流と風が同じ方向の場合には、見かけの風は小さくなり海面は穏やかになる。
見かけの風の変化は、波だけではなくボートにも影響を与える。たとえば、潮流に対してリーバウの状態(つまりボートの風下側に潮流が当たっている場合)では、潮流がない場合に比べてより強い見かけの風を経験することになるだろう。
しかし、漂うようなコンディションの中でレースが行われることはほとんどないから、通常は潮流風は重要ではなく、見かけの風の変化は無視してよい。潮流の読み方
潮汐表は潮流の強さ・方向に関する大まかな目安となる。等深線の描かれた海図は水面下の地形を教えてくれるが、潮流の方向までは分からない。これらの情報源は副次的なものであり――しかし代わりになるものはないが――、レースの戦略を立てる上では実地での潮流の観測が不可欠だ。ここでいう観測とは次の内容だ:・マークの周りの潮流 ブイの周りにできる引き波は、潮流の方向と強さの目安並になる。流れの程度を測るには、スポンジ(あるいは水を3分の2入れたプラスチックボトル)をブイのすぐ近くに投げ入れる。1分後、そのスポンジがブイからどの位、どの方向に流れたかを記録する。これをコースの中の個々のマークに対し繰り返すことで、レースコース上の潮流の流れ方を描くことができる。
この作業は面倒なものだが、潮流の変化が激しい場合、あるいはレースの前に全てのデータを収集できるくらい速いコーチボートがある場合にはやってみる価値がある。コーチがいなければ、上・下マークでの潮流を目視で判断し、スタートラインのブイか本部艇のアンカーラインの周りの流れを見ておけば充分だ。
干満がある場所では、レース中、それぞれのマーク回航をする時に潮流をチェックしておくのもよい。これによって潮流の変化を追うことができ、潮流がいつ反対に変わるかを早い段階で知ることができる。通過したマークの周りにあった潮流が現在なくなっているとすれば、潮流が逆向きになることが予測される。
それぞれのマークの周りの潮流をチェックすることを心がけることによって、レースを通じて潮流に注意を払うようになり、マークに向かって流されてしまうリスクも減少させることができる。たとえ、レース前にコーチがコース中の全ての潮流を予測し、その情報をくれたとしても、コンディションは時間とともに変わるから、レースの最中に潮流をチェックすることは必要である。・投錨したボートの方向 無風でも、バウからアンカーをうったボートは潮流が来る方向を向く。したがって、その場所を実際にセイリングして観察しなくとも、潮流の方向を判断することができる。
しかし、次の2つのケースに注意しよう。まず、弱い潮流の場合、アンカーをうったボートは風の方向を向いてしまうこと。次に、両端にアンカーをうっている船もあるから、それは潮流の目安として使うことができない。・水の状態 渦巻きと盛り上がりは、水面で見ることができる。一列になった波しぶき、さざ波、色の変化は、2つの潮流が隣接する場所を示している(図7-5)。図7-6はコース上で、このラインのどちら側に位置するかによって大きな差が出ることを示している。
図7-5 2つの異なる水の塊。それぞれ異なる色をしている。左側の茶色く堆積物を含んだ水域は、内陸の雷雨によって河口に流れ出た濁流を含んでいる。一方、右側の黒い水域は比較的安定した海水だ。遠くに見えるレーザーは上手に茶色い水(逆向きの潮流)を避けながら、カメラに向かっている。
図7-6 シンガポールのメジャーなレガッタ開催地の潮流。薄い色の水は川の水が流れ出ているもので、2つのボートに対して逆向きの潮流となっている。黒いボートは2つの水域の境界よりも左をセイリングすることで、逆向きの潮流から抜け出し大きくゲインしている。