6 風パターンと戦略
content by Ben Tan
reviewed by Meteorological Service Singapore and Jacob Palm
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風の戦略
前節で、多くの異なる状況のもとでの異なる風パターンについて述べた。さまざまなパターンに慣れれることによってはじめて、それぞれの風パターンを最大限に利用するための戦略を展開することができる。風のシフト(振れ)を探知する
風のシフトを探知するには一般的に2つの方法がある。それは相対的なボート・アングルを利用すること、コンパスに頼ることだ。・ボート・アングル
アップウインドで他のクローズホールドの艇が見える範囲にいる場合、風向が変化すれば、自艇と他艇との相対的な位置が変わる(図6-24)。周囲に同一タックの艇がいて、その艇が同じスピードと同じ高さで走っている場合には、ヘッダーとリフトはこの方法で探知できる。
図6-24 ボート・アングルで風のシフトを探る。自艇(黒ボート)とライバル(白ボート)はイーブン。自艇がリフトを受けた場合(左のベアした矢印)には、白ボートは前に動いたように見える。自艇がヘッダーを受けた場合(右のバックした矢印)には、白ボートは後ろに動いたように見えるこの方法には高価なコンパスは不要だが、不利な点もある。スタートでは、最初のシフトが来るまでは、リフトでスタートしたのかヘッダーでスタートしたのか判断するのはとても難しい。また、下マークをトップで周回したとすれば、他の艇を利用することはできない。波や陸上の目印に対するボート・アングルを使うのは、正確とは言えない。
・タクティカル・コンパス
クローズ・ホールドでは、コンパス方位の変化は風のシフトを示す。スタートではレースの前に収集した示度に基づいて、そして、下マーク周回直後は前回の上りの間にとった示度に基づいて、リフトにいるのかヘッダーにいるのかが簡単にわかる。コンパスは、シフトの度合をはかることができるし、非常に敏感だ。時には、敏感すぎてタックする価値もないような小さなヘッダーも探知する。
シルバ社のタクティカル・コンパスは、スターボード・タックとポート・タックによって異なる方位を覚えておく必要のないように、タクティカル・スケールという目盛りを備えている。この目盛りは、風向が変わらない場合、一方のタックで「18」を示すとすれば、もう一方のタックでは「8」を示すように付けられている(図6-25)。タック後に対応する表示はプラスまたはマイナス10だから、1つの数字だけ記憶しておけばよいのだ。
図6-25 シルバ社のコンパスのタクティカル・スケール。スターボード・タックでは左のように18と読め、ポート・タックでは右のように8と読めるコンパスを活用するために、次のことを知っておかなければならない。
・タクティカル・スケールは、上り角度を40度としてつけられている。これは、ほとんどのコンディション下で正確だが、レーザーがそれほど高く上ることができない軽風では正確ではない。そうした状況では、2つの数字を覚えておかなければならない。
・風力の変化にともなって上り角度が変化する場合、ラルはヘッダーと誤解されることがある。もし厳密にコンパスに従ったとすれば、ラルの度にタックすることになってしまう! ラルにぶつかった場合には、それが本当のヘッダーだと解釈する前に2、3度の余裕をもって判断すること。
・上っている間は、コンパスをじっと見つめていてはいけない! 頭をボートの外に出しておくこと(たとえば、ガストを探すこと)。
コンパスを見つめるよりも、むしろボート・アングルの変化によってシフトを探知することだ。その上で、コンパスでシフトを確認しシフトの度合を測ること。コンパスは、どのくらい落とされたか(または上ったか)、そして、あなたが風向の中心方向から落とされたか(または上ったか)を正確に示す。(もし、落とされているとしても、風向の中心方向を過ぎていなければ、それまでほど上っていないとしても、実際にはまだリフトの上にいるということだ。) コンパスだけに頼るのではなく、ボート・アングルによってシフトを読む際の補助としてコンパスを使えば、頭を外に出してボート・アングルをチェックするようになる。また、ボート・アングルの変化によってシフトが推測された時だけコンパスに目を向けるようにすれば、敏感すぎるコンパスに拾い上げられるあまりに小さなシフト(それはタックする価値がない)によって混乱したり動揺することはなくなる。3つの基本的なシフトでのセイリング
3つの基本的な風のパターンがある。それは振れ回る(左右に振れる/oscillating)シフト、永続的な(一方にとどまる/persistent)シフト、漸進的な(徐々に一方向に回る/progressive)シフトだ。振れ回るシフトは、他のふたつのシフトと重なることがある。
リードされてしまったとしても、決してあきらめてはならない。勝利に結びつく幸運は常にあるからだ。特に対抗艇と離れていってしまうような、明らかに間違ったタックで走ることは避けなければならない。それは追い抜くチャンスを少なくするだけだ。シフトでタックしながら、先行艇のリードを少しずつ削り取るように縮めていくことで、彼らを失敗させることができるのだ。 Rod Dawson
・振れ回るシフト
このシフトでは、風が中央方向から左右に揺れる。風がまったく振れないという状況は非常にまれだ。風波(wind-waves)と呼ばれる現象は、風の方向に規則的な振れを誘発する(この現象の説明は、この本の範疇を超えているので、推薦図書のFrank Bethwaiteによるテキスト参照)。このシフトは、不安定な空気の中で、海面に伝わる速度や方向がそれぞれわずかに違う空気の小塊があることによって生じる。
振れのタイミングは、定期的(たとえば3分ごとにシフトする)だったり、不定期(たとえばあるシフトは30秒で起り、次のシフトは3分後に)だったりする。また、頻繁(たとえば30秒ごと)だったり、頻繁ではなかったり(たとえば15分ごと)する。風向の変化の大きさもまた、規則的(たとえば5度左-5度右-5度左)だったり、不規則(たとえば5度左-4度左-12度右-3度左-10度右など)だったりする。
原則は、ヘッダーではタックし、リフトでは留まるということであり、これが上マークへのもっとも速い道だ(図6-26)。かなり長い間一方のタックでいてヘッダーを受けたとしたら、それまでずっとリフトの中を走っていたということだから悪いことではない。
それに対して、リフトを受けたとすれば、シフトの前に間違ったタックにいたということになる。
図6-26 黒艇と白艇は同じスピードを持ち(航跡の長さは等しい)、同時間内に3回の左右に振れるシフトを受けた。黒艇はリフトにとどまり、ヘッダーを受けた時にタックし、白艇は反対のタックで走ったとすると、結果は黒艇のリードとなる振れ回るシフトを最大限利用するための指針は次のようなものだ(漸進的シフトや永続的シフトを伴わない場合)。
・コースの一方へ行こうとしているのではない限り、中心方向を越えたヘッダーでのみタックする。たとえば、風は100度から114度のシフトで中心風向が107度、現在スターボードで114度の風でリフトを得ているとする。もし5度のヘッダーを受けたとしても、まだリフトの中にいるのだから、タックすべきではない。7度以上のヘッダーを受けるまで、タックするのを待つ。中心風向の読みは、レースの前に上りを長く走ってみることによって得られる。
・シフトのたびに、あなたは異なる風の塊に入っていく。2つの風の塊の間には、風向が2つの中間になっている小さな転換地帯があるだろう。このエリアでは風向は一定しないから、もしヘッダーを受けてすぐにタックすると、風はもとの方向に振れもどるかもしれない。これは大きなロスになりかねないから、もしタックしなおさなければいけないとしても、ヘッダーが継続することが確定した場合のみタックしなおすこと。したがって、シフトに深く入っていった方がよい場合がある。転換ゾーンの大きさによってコンディションはさまざまだが、平均的には、ヘッダーを受けてからタックする前に3秒ほど待つことだ。ここでもまた、シフトが急激に、そして、はっきりと起こるか(どちらの場合もすぐにタックできる)、あるいは、風がゆっくりと新たな方向に変わっていくかどうか見るために、レースの前に上りを走ってみる必要がある。・永続的なシフト
風が上りレグの間中、またはレースの終わりまで、一方向に振れてそこにとどまる時、シフトは永続的といわれる。こうしたシフトが生じるのは、シーブリーズが始まった時、レースの間中とどまるかもしれない新たな風をもたらす大きな雨雲がある時、寒冷前線の到来時などの状況下だ。上りレグで最後の振れ回るシフトは、永続的なシフトとみなしてよい。
2艇がリフトを受けた時には、風上のボートがゲインし、ヘッダーを受ける時には風下のボートがゲインする。したがって、目標は、永続的なシフトが来た時に、フリートの望ましいサイドにいるということになる。そのためには、永続的なシフト(図6-27)を予期することが必要となる。
図6-27 永続的なシフトを使って優位に立つ。黒艇は右手の雨雲が雨を降らせはじめたのを見て、タックして他艇の風上に出た。そしてシフトがやってきた時、黒艇は前に飛び出すことができた新たな風は通常すぐには来ない。シーブリーズの場合のように、発生するために少し時間がかかる。近くの雨雲からの風の場合は比較的早く風向が定まるが、それでも即座にというわけではない。したがって、新たな風向へ徐々に変化してくる。だから、漸進的なシフト(すなわち、風向がその振れている範囲からそれ始める)が感じられたら、何が起こっているのか見回すべきだ。新しい風が来ているのか? 風が振れ戻るとしたら、あなたは一杯くわされるかもしれない。
・漸進的シフト
漸進的シフトでは、風は徐々に左または右の一方に回っていく。漸進的シフトは、次のような場合に起こる。
・新たな風が既存の風に取って変わろうとする時。シフトとともに風力が変化する場合は、常に漸進的シフトを疑うべきだ。
・たとえばオフショアの風、風を妨げる丘、島などによる風の屈曲がある場合(図6-28)。
図6-28 丘の周囲のベンドを利用して優位に立つ2艇が同一タックでクローズ・ホールドで進んでいる場合に、風が一方に漸進的にシフトすると、風がシフトしていく方向の側のボート(すなわち内側のボート)がゲインする。これは、トラックを走っているふたりのランナーに例えられる。一方は一番内側のレーンを走り、もう一方は一番外側のレーンを走っている。もちろん、前者はより短い距離を走ればよいのだから後者より有利である。漸進的なシフトの中では、まずヘッダーとなるタックをとり、その後で上マークを目指してリフトの中を走ることだ(図6-29)。
いずれのタックでも、あなたは内側のサークルにいることになる。この場合、通常のレイラインに達する前にタックすること。さもないとオーバーセイルしてしまう。
図6-29 漸進的なシフトを使って優位に立つ。はじめは黒艇と白艇はスターボード・タックでイーブン。艇が上っていくとともに、黒の矢印のように風はしだいにベアしていく。黒艇はタックし、ポート・タックで漸進的なヘッダーを受けるが、再びタックしスターボード・タックに戻った時に白艇の前で漸進的なリフトを得ることができる。いずれのタックでも黒艇は内側に位置することになる漸進的シフトを、振れ回るシフトや永続的なシフトと見分けることは重要だ。それは、シフトに対する反応が完全に正反対になるからだ。振れ回るシフトと永続的なシフトの場合はヘッダーでタックするのに対し、漸進的シフトが始まった時には、まずヘッダーを受けるタックをとるのだ。
下りレグでの風のシフト
これまで、アップウインドでのシフトについて論じてきた。ダウンウインドのセイリングでも風のシフトを心配する必要があるのだろうか? 一般的には、必要ない。それは、ダウンウインドでの最優先事項はサーフィングとガストをとらえることだからだ。さらに、他の多くのボートと違ってレーザーはプレーニングしている限り、ブロード・リーチであろうと、ランニングであろうと、バイザリーであろうと、同様に速くはしることができる。大きなシフトによって下マークから遠く離れてしまったら、ただ反対側にジャイブすればよい。ガストの中を走る
コース上には常にガストが存在するから、すべてのレグでガストをできる限り利用することが大切だ。・上りレグ
上りのセイリングでは次の点に注意しよう。
・水面上のガストの斑点は風下に動くのを覚えておくこと。そして、直接そこを目指すののではなく、途中で捕まえるようにすること(ガストが捕まえ損ねることがないほど大きくない限り)。もしガストがあなたのコースよりも風下に向かっていたら、あなたがそこに達した時にはガストはさらに風下に移動しているはずだから、追ってはならない。
・ガストの斑点が、前方わずかに風上にあったら(図6-30)それを目指す。ガストに近づくと、ボートは数秒にわたってしだいにヘッダーを受けるようになる(図6-8参照)。ここですぐにタックしてはいけない。ガストから離れてしまうことになるからだ。ガストの「肩」に達するまで、より深くヘッダ−に入っていき、それからタックする。
・同様に、快適に進んでいる時にヘッダーを受けても、本能的にタックしてはならない――タックする前に数艇身先を見て(その位置にあるガストは、ガストに達する前にヘッダーを伝えることが多い)、タックすることによってガストから離れてしまわないことを確認する。
・コース上に目を向けガストを探すこと。
ほとんど常にガストの中を走ることができるように、一連のガストを結ぶようにコースをとることを目指そう。こうして、ガストを跳び移るように進む(Gust hopping/図6-30)ためには、鋭い目と事前の計画が必要となる。
図6-30 ガスト・ホッピング。ガストに近づく時にヘッダー傾向になることに注意しよう。風下に移動してくるガストをつかまえ、次のガストと結ぶように進むことで、ラルよりもガストの中で長く走ることができる・リーチング・レグ
ラルで上り、ガストで落とすこと(図6-31)。これをウィービング(縫うように曲がって進むこと)という。ラルでは上って走ることによってボート・スピードをつけ、より速く「風の穴」(ラル)から脱出することができる。次のガストは風上からやってくるから、高い角度で走れば新たなガストをつかまえるチャンスが増える。ガストの中で落として走れば、ガストが風下に移ってしまうまで、ボートはガストの中により長く留まることができる。また強風時は、落として走ることで、ボートはコントロールしやすくなり、波をとらえやすくなる。
図6-31 ウィービング。ラルでは上らせ(宮城県の一部では「のぼして」という)、ガストでは落として走る・ダウン・ウインド・レグ
ここでもまた、できるかぎり多くのガストの中を走るということが大切だ。ガストを見つけるために、後に目を向けよう。ガストを見つけたら、風下にゆっくり進むガストをつかまえる。ガストをつかまえるためにコースから大きく外れてしまうことは心配しなくてもよい。その損失の一部は上らせて走ることで得られるスピードで穴埋めできるし、ガストの中でプレーニングできれば帳消しにできる。ガストの中にいる間は、さらに落として走ること。そして波に乗っている間はガストから外れないようにすること。私たちがその中でセイリングしている「風」を理解するためには、長い時間が必要だ。間違った予測をして、そのロスで苦しむ場合も多いだろう。しかし、それぞれの間違いを分析し、着実に風パターンについて頭の中のライブラリを確立していけば、ある日、風は忠実な友人になることだろう。
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