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6 風パターンと戦略 content by Ben Tan
reviewed by Meteorological Service Singapore and Jacob Palm![]()
風の変化は偶然のように見えるが、それは物理学の法則にしたがっている。空気と水の温度、地球の回転、海岸線、緯度、そしてその他の多くの要素の全体が風の動きを決定しているのだ。
風は、それぞれ個性をもっているかのように、さまざまなパターンを見せる。毎日時間通りにやってきて、しだいに一方にシフトしていくような予想できる風があれば、心が決まらないように、大きく振れまわる風もある。予想されても、発生しない風もある。
いずれの風のパターンについても、最も短時間でコースを周回するための最適の戦略がある。いったん、多数の風パターンを認識する方法を身につければ、風が次にどうなるかを予想することができ、それはレースで明らかな有利な条件をもたらす。コースを何周もセイリングすればパターンに慣れることができる。しかし、スタート前には限られた時間しかないし、さらに時間の経過とともにパターンは変化するかもしれない。そこで、すばやく風パターンを認識する能力が必要なのだ。そのためには、最初に様々な風パターンを知り、その理由を知らなければならない。私たちが風パターンと言う時、それは地表風の動きを指している。
地表風とは地球の表面近くの風であり、私たちがその中でセイリングする風のことだ。しかし、地表風を理解するためには、私たちはその兄貴分ともいえる、大気の上層で吹く「気圧勾配風」(以下勾配風)に目を向けなければならない。
私は世界中のさまざまなレース・コースでセイリングして多くの成功を収めてきた。それは、トラブルを地域特有の風や潮流を学ぶ機会だと考えるように自らを訓練してきたからだ。Paul Elvstoem
勾配風 ( gradient wind=気圧の高低差によって発生し、コリオリ力と遠心力の影響を受け、等圧線に沿うように吹く風)
勾配風は大気の上層(およそ地表から500m以上)にあるため、地表の摩擦や抵抗の効果を受けにくい。空を流れる雲によってその動きを見ることができる。
勾配風のふるまいは、どんなものであれ地表風に影響を及ぼす。勾配風の背後にある推進力
太陽は、地球の他の部分より赤道を多く加熱する(図6-1)。温められた陸地の上の空気は、順番に上昇し、気圧の低い区域(低圧部/低気圧)をつくり出す。そして、上昇した空気を補うために、高圧部(高気圧)からの冷たい空気が流れ込む。
この地球規模での空気の流れが、風系(ウインド・システム)だ。地球の自転のため、空気は高気圧から低気圧へ直接流れず、風は気圧勾配に交差するように吹く(コリオリ力)。北半球では、風は低気圧の周囲で反時計回りの螺旋を描く(上から見て)、そして、高気圧の周囲では時計回りの方向となる(図6-2)。この方向は、南半球では逆になる。
図6-1 風を動かす力。太陽は赤道地帯をより多く暖めるので空気は上昇し、かわりに両極地帯からの冷たい空気が流れ込む
図6-2 地球規模での循環。気圧勾配風の風向は気圧勾配に対して直角に交わる天気図
私たちは天気図によって勾配風を「見る」ことができる。天気図は、同じ気圧の地点を結んだ等圧線と呼ばれる線で描かれている(図6-3上)。等圧線は低圧部の周りで円を描き、低気圧またはサイクロン(インド洋で発生する台風)と呼ばれる。そして、高圧部の周りでも円を描き、高気圧と呼ばれる。
図6-3 天気図。上)天気図は等圧線で描かれている 下)地表風向が描かれた流線図そのほか、天気図(等圧線図)の中でよく使用される言葉は、気圧の尾根、谷(trough=谷, col=鞍部)(図6-4)である。
勾配風の強さと方向は、等圧線から推測できる。等圧線間隔が狭くなればれば、気圧傾度は大きくなり、したがってその地域の風は強くなる。勾配風の方向は、等圧線とほぼ平行である。
図6-4 気圧の尾根、谷、コル(峠)さて平行といっても、どちらの方向に吹くのだろうか?
前に述べたように、北半球では、風は低気圧の周りでは反時計回りの方向に回転し(渦巻きのように)、高気圧の周りでは時計回りになる。この方向は左手を使って覚えることができる。高気圧の周りの空気の流れは、「親指を上に」する(図6-5)。風は、丸めた指の示す方向(時計回りに)流れる。低気圧は、親指を下にする。指は反時計回りの方向にカールする。そして、それは低気圧の周囲の風向になる。南半球では、右手を使えばよい。
図6-5 北半球の高気圧と低気圧の周りの風向を覚えるために左手を使う。指の向きが渦巻状の風向を示す。高気圧は左図、低気圧は右図。南半球では右手を使えばよい赤道無風帯(ドルドラム)では、気圧傾度は最小となり、等圧線図の線は離れすぎていて役には立たない。そこでこれらの地域では、地表風の風向を示す流線図が用いられる(図6-3下)。
衛星写真
衛星からの映像は、天気図同様、地域の上の天気の瞬間的な映像を見せてくれる。それは地表のはるか上から撮られた写真だ。高圧部は雲がないか、まばらに散らばっていのに対し、低圧部は雲に覆われている。衛星写真に見られる雲は、図6-6の中央にある台風の渦でわかるように、風のパターンを図示している。
図6-6 衛星画像に南シナ海上の熱帯低気圧が見られる
モンスーン
“モンスーン”とは季節を意味するアラビア語に由来する言葉。両半球の日射による加熱の違い(大洋と大陸の温度差ばかりではなく)によって起こる長期的な季節風を指す。
モンスーンはアジア南部・東部で最も発達する。北半球の冬には、シベリア高気圧から吹き出す風は北東また北西の風となって、大平洋岸に沿って中国南部、ビルマ、インド、南シナ海まで非常に長い距離を渡ってくる。それに対して、北半球の夏には、シベリア高気圧は低圧部によって分散させられるが、南半球ではオーストラリアとその沿海に高圧部が発達する。この高圧部によってアジア南部・東部では南東または南西の風が強くなる。北オーストラリア、アフリカ、北米などの他の大陸もモンスーン風を発達させる。
モンスーンは、海洋上を長く通ってきたかどうかによって、雨を降らせたり降らせなかったりする。たとえば、北東モンスーン風はシベリアや中国から乾いた冷たい空気を東南アジアの大陸部にもたらすが、風が南シナ海を渡る間に湿気を含み、シンガポールやマレーシアなどの南の国に雨を降らせる。