3 ビート、リーチ、ランにおける直線スピード
content by Rod Dawson/reviewed by Lock Hong Kit
ランニングでのテクニック
ダウンウインドのセイリング技術は、近年、画期的な注目を浴びてきた技術だ。下マークにバウを向けて、ラムライン(真直ぐマークに向かう航程線)をセイリングするのがこれまでのやり方であった。現在では、トップセイラーは、ラムラインから30度以上の角度をとってジグザグに走航する。アップウインドでのスピードの差が小さくなっているので、ランニング・レグがより重要になってきた。レースで他のボートを抜く絶好のチャンスなのだ。
バイザリー
これはセイルが出ているのと同じ側から風を受ける状態を指し、空気はリーチからラフに向けて流れる(図3-8)。多くの人が最初はバイザリーをむずかしいものだと考えるが、練習を重ねた後にはこの意見を変える。
図3-8 バイザリーのセイリング
・バイザリーの利点
レーザーでは、セイル上の空気の流れを反転させるこの方法が絶対的に速いが、その他の利点もある。
*最初はそうは思えないかもしれないが、バイザリーは、強風やガストの入りやすいコンディションであっても、より安定する。
*ボートを上らせることなく、前方の波のギャップを抜けたり、ノーズダイブ(バウが波に突っ込み、非常に強い風ではバウ沈する)を避けるための追加的な選択肢ができる(上らせずにバイザリーで反対側に向かうことができる)。
*背後のボートのブランケットを避けるためベアしたり、あるいは下マークでインサイド・オーバーラップを得るというような場合に、追加的戦術のオプションができる(ジャイブする代わりにバイザリーにしてさらに落とすことができる)。
プレーニング以外のコンディションでは、デッドラン(真ラン)あるいはブロードリーチに比べて、バイザリーがスピードでは明らかに優位に立つ。大波で中風から強風の場合は、ボートをサーフさせることが一番重要となる。プレーニングしていれば、デッドランであろうが、ブロードリーチであろうがバイザリーであろうが全く関係ない。
・前方は後方であり、後方は前方である!(ラフとリーチが入れ替わる)
空気の流れが逆になるのでリグのセットアップも変わる。通常(デッドランやブロードリーチ)は、リーチがツイストしすぎたり、風が逃げないように、いくらかバングのテンションをきつめに締めておく。それに対して、バイザリーではラフが真直ぐなリーチの役割を果たすので、バングのテンションをきつくする必要はない。実際、バングはリーチ(バイザリーではラフになる)を広げるくらい緩めておき、空気がうまく入るようにする。さもないとブームは簡単にワイルド・ジャイブしてしまう(図3-9)。
セイルの両側のラミナーフローを確認するには、通常、ラフ周辺のテルテールを使ってセイルをトリムするが、これと同様に、バイザリーでは、リーチの両側を空気が流れるようにセイルをトリムしなければならない。セイルを正しくトリムしてれば、リーチはフリッキング(軽く弾かれる)し始める。素早い動きなので、これを止めてはいけない。この自然なリーチの動きは、合法的なパンピングといってもよいもので、メインシートを一定量緩めてから止めることで促進される。波に合わせてこれを試すとよい。これによって、サーフィングが向上する。ブロードリーチでは、ボートをわざと風上にローリングさることで前に押し出す。バイザリーでは、風下側へのロールが同じ効果をもつ。推進力についてのルールには注意が必要である。
パワーダウンさせるには、ベアしてシートを引き込む。間違っても逆に行わないこと。ブローが入った時にはこれが大切だ。
バイザリーでは、風下側からの波を受けやすくなるから、ボートは風上にロールしてしまう。体重を早めに風下に動かすことで、これらの波に備えておく。反応が遅すぎるとラダ−が水中から外に出てしまい、まったく利かなくなる。
![]()
図3-9 バイザリーでは開いて細かく震えるリーチが速い
デスロールの回避
ランニングでは、風上への突然のロールによってボートが急激にベアしてしまうという問題がよく起こる。こんな時あなたはどうしているだろうか? おそらくシートを引き込みトリムを直すために体を動かしているのではないだろうか。しかしここではラダーに注目しよう。あなたはラダーを押す(ヘッドアップする)だろうか、あるいは引く(ベアする)だろうか? ラダーを引くなどということは、ほとんどの人が信じられないだろうが、実際にはそれが正解だ! ラダーを押すという選択をするとしよう。するとラダーの角度は上昇する翼のように働き、トランサムを水中から持ち上げて、ロールの勢いを強めてしまう。それに対し、ラダーを引いた場合には、ラダーは下降する翼となり、ボートをより深いバイザリーにして、ボートを真っすぐにする。同時にリーチにかかる力が取り除かれ(空気の流れは増し、圧力は減る)るからリグは安定を取り戻し、ボートも安定するのだ。
Steve Cockerill
セイル・トリム
ブロードリーチでは、テルテールに従ってセイルをトリムする。バイザリーやデッドランでは、ブームはボートのセンターラインに対してほぼ垂直になるべきである。セイルにより生み出された揚力は、ブームに対してほぼ垂直であるので、ブームをこの位置に持ってくれば進みたい方向に対し真直ぐ前に揚力が働く。
ここからは、セイルからどの位のパワーが欲しいか、また、どこに向かいたいのかによって内に、外にセイルをトリムする。よくある失敗の一つは、それとは知らずに、ブームを大きく出しすぎたり引き込みすぎたりしてしまうことだ。
自分が座っている場所から90度の位置を判断しにくい時は、メインシートに印をつけておくとよい。このためには、陸の上でセンターラインに対してブームが垂直になるように向け(セイルに少し力を加えて)、ブームブロックの前にあるメインシートに印をつける。これが目印となる。
風があまりに弱く、ブームを外に出しておくのに充分なセイルのプレッシャー(圧力)がない時には、垂直からさらに10度程度ブームを出して、ボートをアンヒールさせる。ブーム自体の重さでブームは正しい位置になり、セイルが張る。あるいは、前に移動しブームを手で押し出す法もある。
ハルのトリム
ダウンウインドでは、アンヒールさせることにより、セイルの風圧中心(c.e.=効果中心)が真直ぐセンターラインの上に来て(図3-10)、ヘルムが中立になり無駄なラダ−の動きが減る。この位置を基準として、ハルの横方向の動きがボートを有効にステアリングする(さらにアンヒールすればベアし、ヒールさせれば上る)。
バウが前の波の中突っ込まない程度に、より前に座ることで快適になる。アンヒール(サイドデッキがわずかに沈む程度)させて前に座ることによって接水面が減少し、ドラッグが少なくなる。
図3-10 ダウンウインドではアンヒールさせた方が速い。セイルのセンター・オブ・エフォート(c.e.=効果中心)がボートの中心線上にくるからだ。
姿勢
異なるコンディションに対応して3つの姿勢が一般的である。
○膝を体の前におく(図3-11上)
体がボートの前ではなく風下に向くので、後を見て高い圧力の固まり(ガスト)を探しやすい。軽風・中風のコンディションでは、多くのセイラーがこの姿勢をとるが、吹いている時でさえこの姿勢が安定するという人もいる。
○前の膝をセンターボードの横におく(図3-11中央)
これはより安定的で、体重をより前に持ってくることができ、さらにアンヒール沈を避けるために風下に素早く動きやすくなる。
○ロックイン(図3-11下)
より強風で大波の場合、体重を後ろにおきバウが波に突っ込むのを防ぐ。前の足でコックピットの前をぐっと踏み、後ろ足の膝は床につくくらい低くし下半身をハルにロック(固定)する(訳注:後ろの脚をハイキング・ベルトにからめるようにするとさらに効果が高い)。一方、上半身は自由に動き、サーフィングがうまくできるようになる。
図3-11 ダウンウインドでの一般的な体勢
サーフィング
リーチングと同様、ダウンウインドで最も重要なのはプレーニングである。波に乗って下り、波から波へとプレーニングする。よい波を選ぶこと。小さすぎてつかめないので無視した方がよい波もあれば、深すぎてノーズダイブを引き起こす波もある。また、ラム・ラインから大きく外れてしまうような波もある。時には、2種類の波があり、それぞれ異なった方向に動くので、ボートをプレーニングさせておくために多くの選択肢が利用できることもある。波が混在している場合には、次のマークのより近くに運んでくれるような波か、そのレグでの有利なサイドに運んでくれる波かのいずれかを選ぶ。
波を捉えるためには、ハイキングしていない場合を除き、シーティングと体重移動はリーチングの項で説明したの同様で、体重は外側というよりも後ろにかけるようにハイクアウトする。波に真直ぐバウを向け、波の一番深い所を狙うことで最高のスピードを達成できる。ここでのコツは、前の波に突っ込まず、乗っている波を逃さないことだ。バウをやや風上に向け、メインシートを大きくパンピングする。ボートが勢いを失い始めたら、バウを回してバイザリーにする。そしてメインシートを50センチ程度緩めて、手でこれを止める。これでリーチが広がり、波と共にさらに進める。一波につき一パンプしかできないから、チャンスを最大限に活かすこと。
バウが突っ込みそうに(ノーズダイブしそうに)なったら、上らせるかベアする。前の波のギャップを抜けるようにステアリングし、その波を利用してサーフィングを持続するように風下のスロープに乗っていく。このように波を「リンク(つなげる)」することで永続的にボートをプレーニングさせる。
ラム・ラインから遠く離れることになったとしても、ボートがプレーニングしている限り気にすることはない。速く走るセイラーの中には、大きくコースから離れて走る者もいるし、そうではない者もいる。風下にジグザクに進んでいる時は、他のボートから離れ彼らのブランケットゾーンにも入らないようにする。他のボートが近くなったら、他のボートが自分の進路に入らないようにできる自分の権利(もし航路権が自分にあれば)を確認しておく。ガストの中をセイリングすればサーフィングしやすいから、インターセプト可能なガストをつかめるよう、頻繁に後ろを確認する。
異なる風力の中でのランニング
異なる状況で、風下に速く走るためのいくつかの留意点を下記にまとめた。
・軽風時:
*一番大切なのは、ブローを探しそれらをつかむことだ。これで取るべき進路が決まる。
*次に大事なのは、クリアエアを維持しスピードを維持すること。他のボートのウィンドシャドウに入らないようにし、特に背後に2つのボートグループがあればそのギャップにいるようにする。そうすれば風は遮られず、風の収束効果によって加速することもありうる。
*可能な限りバイザリーでセイリングすれば、軽風の場合には速く走れる。
*アンヒールさせ、自分の体重をと十分に前にかけることで、ボートの接水面を減らす。
*ラダ−の動きを最小にするため、ハルの横方向への体重移動によりステアリングする。
*セイル、ハル、フォイルの周りの流れを乱さないように、急な体の動きは避ける。
*本当に微風の時は、ブームをセンターラインから90度以上外に出す。これでセイルは風をはらんでブームも戻らないようになる。あるいは前に乗って、ブームを手で外に押し出す。
*前のブームブロックからメインシートを操作して、セイルが受けるプレッシャーをより感じるようにする。
*全てのコントロールラインを緩めておく(特に、バングを緩めてセイルのリーチを広げる)
*センターボードを高く上げて、ステアリングできる程度水の中に残す。しかし、シャープなバイザリーをするには、センターボードを少し落とし、ボートが横すべりなく正しい針路を進むようにする。
・中風時:
*ここでの最優先事項は、波を捉えその波に乗り続けることになる。ガストの中にいることで波に乗りやすくなる。
*デッドランを避けるように、より上らせてあるいはより落としてセイリングする。
*ちょうどセンターボードのすぐ後ろで体重を前にかける。体重移動でステアリングする。
*ヒールを調整してヘルムを中立にする。
*バウが前の波に突っ込むことを避ける。
*全くプレーニングすることができなければ、よい波を探す間、最高のスピードをつけるためにバイザリーでセイリングする。プレーニングしていなければ、体重を前方に移す。
*リーチが広がるようにセイルをセットする。
*ボートが少しロールするぐらいまで、センターボードを充分上げる。
*一つのポジションに留まるよりも、自由にボートの中を動きまわれるようにする。
・強風時:
*プレーニングするのが簡単だから、目的は波をリンク(つなげ)させて、プレーニングし続けることだ。
*安定させるため下半身をロックインし、上半身を動きやすくする。
*バウが波に突っ込まないよう、体重を後ろにかけて波を登り降りする。
*波の間にいる時は、ボートを安定させるためにバイザリー、あるいはブロードリーチを続ける
*安定させるためにセンターボードを半分から4分の1下げる。
*ゆっくりではなく速くセイリングすること。プレーニングしている時は見かけの風は減るので、リグにかかる力が少なくなる。
レーザーで効果的なダウンウインドのセイリングをするためには、基本こそが決定的な役割を果たす。波を捉え、波に乗り続ける能力は、的確なセイル・トリム、体重の位置、そして有効なチューニングによって、飛躍的に向上する。こうした要素がどのように相互作用し、どうすればそれぞれの効果を向上させるかを考えることによって、ダウンウインドのスピードは最高になり、ゲインに結びつくのだ。
Nick Adamson
トップセイラーの動きを見ることこそ、いままで述べてきたテクニックについての最高の補足といえるだろう。現在では、一流セイラーの動きをCDロムで繰り返し何度も何度も見ることが可能だ(推奨文献参照)。
そして、水上で多くの時間を費やすこと。どんなに詳細に説明したとしても、水上での実体験なくしては、ここで読んだことを充分に理解することはできない。
![]()
![]()
・・4章へ