3 ビート、リーチ、ランにおける直線スピード
content by Rod Dawson/reviewed by Lock Hong Kit
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ボートスピードはフリートレースの必要前提条件である。これなしでは優れた戦術も戦略もほとんど意味がない。ボートスピードを手に入れれば、すばらしい戦略家となる――すなわち、優れたスピードを持っていれば、コース内では気に入った他のセイラーの後を追い、彼らの戦略を真似た上で、最終的にはスピードを武器に彼らを押さえてゴールすることもできるのだ。
レーザーのようなシンプルなボートでは、ボートスピードを決定する主な要因はボートの装備それ自体よりもむしろ技術やフィットネスである。セイルのチューニングやトリミングもまた重要な役割を果たすが、これらについてはすでに前章で説明した。セイルが適切にチューニングされているものとして、アップウインド(上り)・リーチング・ダウンウインド(下り)のそれぞれのレグで速く走るテクニックについて見てみよう。
アップウインドのテクニック
1996年のオリンピックでは、上りが平均でレースの56%を占め、リーチングやランニングはそれぞれレースの13%ならびに31%に過ぎなかった。これでもわかるように、上りでのわずかなスピードの優劣が他のボートとの大きな差を生み出すのである。スタートライン直後のボートスピードがあれば、第一集団の先頭に抜け出すことができるから、クリアな風を得ることができ、また自由にタックすることができる。最初の上マークを通過した後、通常は順位は大きく変動しないから、残りのレグをそのまま頑張り続けることが重要だ。
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1996年のオリンピック・レーザー競技における、各レグの所要時間の内訳
クローズ・ホールドのセイリングで、優れた直線スピードを出すには以下の条件が必要となる:
* 最適な体重に調整しそれを維持し続けること。スタンダード・リグでは78−83キロ、ラジアルリグでは60−75キロが最適だ(10章・11章参照)。実際、これらの体重範囲外で速く走るセイラーもいるが、これは例外だ。加えて、スタンダード・リグの一流セイラーは身長が170センチ以上ある。
*フィットネス(10章参照)
*適切に調整・トリムされたリグ(2章参照)
*効果的なハイキングテクニックと体重移動
*熟練したステアリング
最初の3点は他章で説明するので、本章では後半の2つの要素について細かく見ていこう。
ハイキング : レーザー・スタイル
レーザーのフラットな船体は、人間工学的要素よりもカートップを考慮してデザインされており、この結果、レーザー特有のハイキング・テクニックが生み出された。膝と上半身を真直ぐにすることを特徴とするこのハイキング・テクニックは、1994年のレーザー世界チャンピオン、ニュージーランドのニック・バーフットにより有名になった。軽い船体を活用するために必要な体重移動とともに、レーザー特有のハイキングテクニックは、身体的努力が必要で、そしてつらい技術なので、初めてこのクラスに挑むセイラーにはかなり荷が重い。このテクニックを習得するには数年が必要で、技術の優劣が、少年と成年、そして遅い者と速い者との差となる。
・なぜハイクするのか?
ハイキングすることによってボートはフラットになる。フラットなボートでは、マストはほとんど垂直でかつ揚力はほぼ水平面方向に近くなる(図3-1左)。ボートを水平に移動させることが目的だから、ボートをフラットにすることが望ましいわけだ。ヒールすると、揚力はボートに対し下方へ働くベクトルを受け、スピードが奪われる(図3-1右)。そして水平なベクトルは減小する。
図3-1 セイルによって発生したリフト(L)はブームとマストに垂直となる。左)ボートがフラットならば、リフトはほぼ水平方向になる。右)ボートがヒールすると、下向きのベクトル(d)が発生し、水平方向の分力(f)は減少する
「真直ぐな脚。真直ぐな背中。フラットなボート。上体を後ろに反らす。ボートをトルク(回転=体重移動によって進行方向を軸として回転させること)する。メインシートをクリートしてはならない」
アップウインドのハイキングについて Rod Dawson
・メインシートとティラーエクステンション
優れたハイキングテクニックの習得のためには、まずメインシートとティラーエクステンションについていくつか注意す必要がある。メインシートを手の周りに巻きつけないこと。これはガスト(ブロー)が入った時、メインシートを出すのが間に合わないからだ。新米のレーザーセイラーならば、上りではメインシートをクリートしておいてもよい。しかし最終的には、メインシートをクリートから外して走る方がよい。これによって、風や波に対してより素早く対処できるし、メインシートのテンションはハイキングしている際に体重を支えるのに役立つ。太股(もも)でメインシートを”ロック”(図3-2)するとより操作しやすくなる。両手でたぐりよせながらシートを引き込み、決して歯を使わないこと。さもないとガストを受けた時に歯が宙を舞うことになる。
ほとんどの場合、ティラーエクステンションは身体の正面でてのひらを下に向けて持つのがベストだ(図3-2)。これは、他のクラスでは違うこともあるが、肘の動きだけでステアリングできるので最も効率的である。逆に、ティラーエクステンションを身体の横に置くと、エクステンションを前後に動かすのに上半身全体を動かさなくてはならなくなる。非常に弱い風の時には、感度が高まるという理由でエクステンションを身体の横に置くセイラーもいる。
中には、より大きなライティングモーメント(ボートをフラットにする力)を得るために、メインシートとティラーを持つ手が胸の位置になるような極端に長い(1.31m)エクステンションを使うセイラーもいる。しかし、長いエクステンションではタックが難しくなるので、時間とともに徐々に長くしていくのがよいだろう。
図3-2 ハイキング・ポジション ティラー・エクステンションを体の前で持つ。親指を使って人さし指の上でシートを折り曲げて、メインシートをロックする。メインシートを太股に押し付けることによって持ちこたえるのが楽になる
・ハイキングストラップ
ハイキングストラップは、体重を遠く外に出すために十分に緩くなければならないが、その一方、下半身をデッキにしっかり固定できるだけきつくなければならない。この結果、体とボートは一体となり、体の移動を効果的にハルに伝えることができるのだ。つま先、足先、足首のいずれかの部分でハイキングをしようが、ガンネルに当たる場所は太腿の真中、あるいはそれより下でなければならない。ふくらはぎを太腿と同じ位デッキにしっかりと固定することができなければ、ストラップをきつくするか、または体をもっと外に出す必要がある。つま先でハイキングするなら、ストラップは足首でハイキングする時よりもきつくしなくてはならない。
調整可能なハイキングストラップ(1章参照)は、リーチおよび限界的な上りでのハイキングの際に有効だ(特に身長が平均よりも小さい場合)。
・ポジション
ハイキングはセンターボードのすぐ後ろからおおよそ30センチ(前側の太股の外側から測って)の間で行う。この範囲内での正確な位置は、波の大きさに応じて違い、バウを超えるような波では後ろに、よりフラットな場合は前に置く。
・姿勢
つま先を上、あるいは少し外側に向けること。つま先が内側に入ってしまうと、太股の内側の大腿四頭筋に比べ外側の大腿四頭筋に不均等な動きが強いられるので避けなければならない。負荷を全ての筋肉に等分することがより効果的である。膝をできる限り真直ぐにしておくこと(図4.3)。膝の後ろとサイドデッキの間に全く隙間がなくなるまで、光(後ろから見て)も手もこの間を通ることができないくらいに膝を真直ぐにするというのが理想だ。
膝を真直ぐにすることは、アップ・ウインドでのスピードを得るために不可欠である。その理由は――
* お尻と水面が離れる
* ライティング・モーメント(ボートをフラットにする力)が増す
*膝を完全に伸ばしてロックしておけば、ガストが入った時にボートのヒールを防ぎやすい
*“ロックイン”していれば、波を越える際に体を動かしてボートを波に合わせるように回転させる際、体の動きを直接ボートに伝えることができる
図3-3 フラットに出たハイキング
一度“ロックイン”の感触をつかめば、それがどういうことなのかわかるだろう。また、これがどんなに有効かも理解できるだろう。軽風・中風では、ロックインの感覚を保つためにハイキングストラップをきつくする。
風の強さに応じて、上体をフラットから垂直な状態まで変化させる。しかし、どんな位置にあろうとも、決して屈んではいけない。屈み込んでしまうとテコの力が小さくなり、ガストを捉えるのが難しくなるし、背中を痛めることもある。背中の下部を真直ぐに、そして胸は上げること。背中を真直ぐにする(特に上体を起こしている場合)ためには、膝の後ろの腱が柔軟でなければならない。膝の後ろの腱が長ければ、腰関節が曲げやすくなり、背中の下部の負担が少なくなる。
・サバイバルのためのヒント
ハイキングをすると、筋肉は長い間同じ収縮運動を行うため筋肉への血の流れが悪くなり、収縮状態を継続することが困難になる。ハイキングの耐久性を高めるには、こまめに(たとえば一波越えるごとに)筋肉を一時的にリラックスさせ、血流をよくすることだ。上手に筋肉をチューンナップしていれば、こうした一時的なブレイクをうまく間隔を置いて取ることができ、上マークに到達する前に筋肉を疲労困憊させずにいられるのだ。
バテン入りのハイキングパンツ(図3-4)は、ガンネルからの圧力を分散するので、長時間そして激しくハイクできる。バテンはお尻を水面から離しておくことにも役立つので、中にはさらに厚いバテンをハイキングパンツの中に入れてこの効果を高める者もいる。こうしたパフォーマンス向上のための衣服は、レーザーセイラーの基本的装備といえよう。
ヨット用品のページ
図3-4 ハイキング・パンツはハイキングの能力を向上させる。暑い時のショートから寒い時のフル・スティーマーまで、さまざまな天候に合わせたものがある。厚く、幅広く、硬いバテンがネオプレーンのウェットスーツに縫い込まれたものがよい。ショートタイプはショルダー・ストラップ付がよい。適正な長さが大切だ。ショートタイプが長過ぎたら、擦り傷ができないように膝の後ろを切る。太股がきつすぎると血液の流れを妨げる。
“フラットアウト”のハイキングテクニックの目的は、頭をほぼ膝と同じ位置に保ち、最高のライティング・モーメントを達成することだ。フラットアウトすることで確実に速くなるが、これは当然全てのよいものと同様に対価を伴う。それは、視野が制限されることに加えて、大変な負担が関節部分(特に足首・膝)とハイキングしている筋肉(足首背屈筋、膝伸筋、臀部屈筋、腹部)にかかるということだ。しかし、積極的かつ継続的なトレーニングをすることで、最終的には(これには数年がかかるかもしれないが)、関節部分と筋肉はこのテクニックが要求する負荷に適応できるようになるだろう。
ステアリング
レーザーの船体は60キロしかないために、間断なく打ち寄せる波はアップウインドのスピードを打ち消しまうほどの効果を持つ。そこで、熟練したステアリングによって、波の中で抵抗が最も少ない道筋を見つけることがボートスピードのために重要になってくる。軽量のレーザーでは、ラダーを使ってのステアリング以外にも、体重を使って上りのステアリングすることが可能だ。
・ラダ−によるステアリング
打ち寄せる波でバウが浮き上がった時に少し風位に向け、その波が船底を通過する時に通常のコースよりもベアする(図3-5)。波の中では、波の頂上の高い場所を避け、コースから大きく離れなければ、波の切れ目(よりフラットな部分)を抜けるようにする。
図3-5 波の中でのステアリング バウが波を登る時(下)は上を向け、その波が体の下を過ぎる時(上)ベアする
ボートはウェザーヘルムによって上るので、よほどチョッピーなコンディションでない限り、波に向かって上らせる際にティラーを激しく動かす必要はない。それに対し、ベアするためには、より大きなラダ−の動きが必要になる。基本的に、ラダ−の使いすぎはブレーキとなることを頭に入れておくこと。
しかしながら、チョッピーなコンディションでは、ベアさせて波を下るための高さをかせいでおくために、活発なステアリングが大変効果的になる。波のタイミングに合わせてわずかにヒールさせればヘルムの移動によってバウを風上にむ向けることができる。タイミングが非常に重要で、これがうまくいかないとボートは失速する。
異なるコンディションにおける最適のステアリングを習得するには、かなりの時間を水上で過ごすことが必要である。密集している波の場合、よりいっそうのステアリングが必要となるが、あまりにも波の間隔が短ければティラーを止めておく方がよい場合がある。
ステアリングとセイルのトリミングは同時に行わなければならない。――ボートをベアさせるためにメインシートを緩め、次の波で上るためシートを再び引く。これは、通常よりも大きな進路変更が必要な大波の場合に行われる。この場合には、バングをよりきつく締めておくこと。さもないとブームが上がって、シートを緩めた時にセイルのパワーが増しボートがヒールしてしまう。それに加え、バングにテンションをかけておくことでセイルのトリミングが楽になる。
・体を使ったステアリング
前述したように、ボートは常にフラットでなければならないが、例外が一つある。それは中風から強風でチョッピーなコンディションだ。こうしたコンディションではボートは少しヒールさせてよい。そしてボートが波の頂上を通過した時に(図3-6)、外にそして後ろにハイクアウトしてボートをフラットにし、波の間でパワーをつけるようにする。体重を後方にかけることでボートはベアしやすくなり、波を下りる時にバウが水面を叩くことを防ぐことができる。
ボートを効果的にトルクさせるには、かなりのフィットネスと優れたテクニックが必要になる。間違ったテクニックでは、体重移動なしで一生懸命ハイクアウトしながらボートをフラットにしているセイラーよりも遅くなってしまうだろう。このトルクのテクニックを習得するには、まずフラットにするハイキングを学ばなければならない。この技術を確実に身に付けたら、大きな波の時だけボートをトルクさせる。フィットネスが増せば、もっと頻繁にトルクさせる。一流のセイラーは、レースの間中ずっとトルクを維持できるのだ。
図3-6 前後に動くことによってトルクさせる。通常のハイキング・ポジション(上)から、波が体の下を過ぎる時に上体を外に投げ出す(下)
軽風時の上り
サイドデッキに座っている時は、つま先を風下側のハンドレールに引っ掛けておけば、身体の動きがより効率よくハルに伝わる。風の強さが変わる度に、お尻を内外にスライドさせる。体重を前方、すなわちセンターボードの横におき、トランサムを水面よりも上に持ち上げることでドラッグ(抵抗)が減る。このポジションでは、ティラーエクステンションを体の正面ではなく横に置くようにすれば、ヘルムに対する感度がよくなる。非常に軽風でフラットな水面では、出来るだけ静止して、セイルの周りの薄い空気の流れ(ラミナー・フロー=層流)とハルとフォイルの周りの水の流れを乱さないようにする。
非常に弱い風の場合、わずかにヒールさせることでスピードが増す。それは、わずかなヒールによって――
* セイル・シェイプがつくられる
* ウェザーヘルムが増すことでボートの感覚を得やすくなる。
* ハルの表面の接水面が減る。レーザーのハルは、船体中央が相対的にフラットで横にいくと丸くなっているので、ボートをヒールさせることにより丸い部分を水につけることになる。丸い部分は水にさらされる表面積が小さく(フラットな部分と比べて)、それゆえドラッグが少ない。また、ハルは後方よりも前方がより丸いので、前方に座ることでもドラッグは減る。
* 波切りがよくなる。
軽風の場合、前述の利点はヒールによってセイルの揚力が水平面から離れてしまうことを補ってもあまりある。
より大きな波の群が近づいてきたら、波を通過するパワーをつけスピードをつけるためにベアする。これとは逆に、波がない場合は少し高さ(風位に対する)をとる。
オーバーパワーの風の場合の上り
レーザーは比較的小さいセイル面積にも関わらず、オーバーパワーになりやすい。風が非常に強い場合には他のセイラーも同様にオーバーパワーなのだから、あきらめることはない。もし他のセイラーがオーバーパワーでないように見えるとすれば、それは彼らが風の扱い方を習得しているからだ。
他のセイラーと同様に以下を実行しよう:
* まず、最初にセイルをフラットにする。カニンガムが引いてなければ、グロメットがグースネックの位置に来るまで引く。バングを締める時には、体重を後ろにかけて引く。もし、力が足りなかったり体重が足りない場合には、メインシート・ブロックとブームの間のメインシートを足で押してバングを引く。メインシートを緩めた時にブームが上ではなく外に向かって水平に移動するようなら、バング・テンションは適切である。セイルのフットが真直ぐになるまでアウトホールを締める。
* 必要があればメインシートを緩める。ラフに裏風をいれてもボートをフラットにオた方が、セイルをきちんとトリムしてヒールするよりも、速く走ることができる。
*メインシートをクリートしない。波に合わせて絶え間なくセイルをトリムし(波に向かって上らせていく時にシートを引き込み、波をベアしながら下りる時にはシートを緩める)、ボートをフラットに保つ。
*バウが波に突っ込まないように、やや心持ち後ろに座る(センターボードの後ろから30センチあたり)。
*フラットにハイクし、上らせあるいはベアすることによってボートをフラットにする。 3 ビート、リーチ、ランにおける直線スピード
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