2 セイルチューニング

content by Ben Tan and Jacqueline Ellis
reviewed by Rod Dawson


 
 レーザーにはたった一つのセイルと3つのコントロールラインしかない。ジブもなければスピネーカー、スロット、フォアスティ、スプレッダー、シュラウドの心配もないが、かといってレーザーセイラーの生活は気楽なものだというわけではない。

航空学のエンジニアほどの知識は必要無いまでも、リグを最大限に利用するのであれば、セイルとその周りの空気の流れについて知っておかなければならないいくつかの基本的事項がある。
 

 セイルの理解


セイル
・シェイプ

 セイルは単純でフラットな三角形の布というのではなく、合成樹脂加工したダクロンでできたセイル生地をいくつかのパネル状に縫い合わせて、図2.1のような広さが7.06平方mの水平なクロスセクショナル(横帯構造)形を作っている。


セクション・シェイプは以下の要素によって定義される。
* Depth (デプス): セイルの一番深い部分から cord(コード=一定の高さのラフとリーチを結ぶ直線)までの距離。
* Cord length(コードレングス): ある特定の高さにおけるラフとリーチの水平距離。
* Camber(キャンバー): デプスとコードの比率。
* Draft position(ドラフト・ポジション): セイルの一番深い位置。
* Angle of attack(アタックアングル): ラフの丸み具合 (図2.2).
* Twist(ツイスト): セイル上部のコード・アングルの歪曲(ねじれ)。

         
(左)図2-1 セクション・シェイプ (右)図2-2 ラフの丸み具合がアタック・アングルを決定する。上)小さなアタック・アングル/下)大きなアタック・アングル


セイルの働き

 セイル面での屈曲のために、風下側の空気は風上側の空気よりも同じ時間で非常に長い距離を流れる(図2-3)。つまり風下側の空気の流れが速いわけで、そのため圧力が下がり(ベルヌーイの法則)、セイルはその揚力で風下側に吸い込まれることになる。あまりに簡単な説明かもしれないが、本書の目的には十分だろう。


図2-3 風下の高速で流れる空気の流れ(狭い間隔の流線)が揚力(lift)を発生させる



 実際のセーリングで考えてみると、セイルを効果的に作用させるためには、セイル面に沿って空気が流れるようにしなければならない。だから、バイ・ザ・リーやブロード・リーチの方が真ランよりも速く走れるわけである(図2-4)。真ランで風がセイルを押す力は、セイル上を風が流れることによって生じる揚力より小さいのだ。


図2-4 風の流れのパターン。(左)ブロードリーチでは空気はラフからリーチに流れる。(真中)真ランのときには空気は乱れ、一番遅い。(右)バイ・ザ・リーでは空気はリーチからラフに流れる。


 生み出される揚力の効果は、風下側の空気の流れがどのくらいまで高速化できるか、そしてセイルの風下面を空気がどれだけうまく流れているかによる。図2-5のように、空気の流れはブレイク・ポイントの後ろで剥離(注:空気の流れはセイルに張り付いていることがベストだが、これが途中でセイルから離れてしまうこと)する傾向がある。多少の剥離はセイルがリーチに向かうにつれて仕方ないものであるが、ブレイク・ポイントがラフの方に向けて移動してくることは避けたい。そのためには、セイルを深くしすぎないことが必要で、特に軽風の時に注意が必要だ。だがさらに重要なのはメインシートを引き込み過ぎないことだ。



図2-5 ブレーク・ポイント(破線矢印) 上)最適なセクション・シェイプとアタック・アングルでは風の流れの剥離は最少になる。下)過剰なフルセイルでは過大なアタック・アングルとなり、剥離が早く(より前で)起こる


シートを引き込み過ぎないこと

 セイルを引き込み過ぎる(オーバーシーティング)と空気の流れが早く剥離してしまうばかりか、セイルがストール(失速)してしまう。空気の流れがラフからリーチにかけて剥離するときストールする。このような場合、風下側のテルテールが下がる。ストールは著しく揚力を損なうことになる。これとは逆にセイルを大きく外に出し過ぎるとセイルがシバーし始める。両方とも避けなければならないが、ストールはシバーよりも始末が悪い。セイルがシバーした場合、セイルを引き込むことによって即座にスピードは回復する。一方、セイルがストールしてしまった場合、セイルを緩めたとしてもボートのスピードを回復するのにかなりの時間がかかる。


 オーバーシーティング(セイルの引き込み過ぎ)がスピードを遅くする理由はもう一つある。セイルが生み出す揚力(L)はブームに対しておおむね垂直である。Lはボートの前進力(f)と、ボートをヒールさせ、また横流れを引き起こす横向きの力(s)に分解することができる(図2-6)。セイルを引き込み過ぎるとfが小さくなる分sが増加する。裏風が入っている(ラフィングしている)セイルの場合、Lの多少の減少はfの増加で部分的に補填されているが、これはLがブームと一緒に前方に回っているからである。このため、オーバーパワーになった場合にセイルを緩めることをためらってはならないのだ。


図2-6 リフト・フォースの解析 L=リフト、f=前進・推進力、s=横滑り・ヒールを起こす力

次の状況の時にはセイルのトリムに集中しよう:
*スタート前でライン上に待機している場合、セイルはシバーさせておき、決してストールさせてしまわな  いこと。特に軽風時に重要である。さもないとボートはラインを切ってスタートするときに加速するのに時  間がかかってしまう。
*上マーク回航あるいはペナルティターンなどでベアする(風下に向ける)時、ストールを避けるため常に  セイルを緩めること。
* リーチングでボートがプレーンニングを止める時、見かけの風は後ろにシフトする。従ってセイルは緩め なければならない。ボートが再び波に乗り始めたらその時だけセイルを引き込むこと。
* 風上航(上り)で波に当たってボートがストールした時は、セイルを緩め少しベアすること。これによりボ ートはスピードを取り戻す。