14章 全部まとめてやってみよう/レーニング・プログラムの立案
Content by Ben Tan and Angela Calder
Reviewed by Todd Vladich and Edger Tham


レーザーは比較的単純なボートだが、レーザーセイリングというスポーツは簡単ではない。たくさん学ぶこともあるし、習得するべき多くのスキルがある。それはセイルトレーニングであったり、いろいろな角度でのボートスピードであったり、ボートハンドリング技術、フィットネス、ウィンドシフトの読み方、戦術、戦略などたくさんのことがある。したがって、重要なのはよく計画された体系的なトレーニング・プログラムを作ることだ。
 一生懸命セイリング技術を習得し、身体能力を高めつつも確実に行わなければならないのは、こうした作業の果実をもぎ取るために体をトレーニングに適応させることだ。回復によって、このような適応は最大化され、オーバートレーニングのリスクを減少させる。この最後の章ではさまざまなトレーニングの要素を、回復のための戦略なども含めて、体系的かつ現実的なトレーニング計画として統合することを考えよう。



水を使ったトレーニングはプログラムに変化を与える

年間計画の手段


 全てのトレーニングの要素を統合し、やり過ぎないようにする一番の方法は体系的なゲームプランを持つことだ。以下に簡単な4つのステップを示そう。

1.ターゲットを決める
2.ターゲットへ到達する現実的な計画を工夫して作る
3.計画を実行する
4.進行状況をモニターし、非効率な部分や間違いを発見、修正する。

 ターゲットを決めたら、計画を工夫したりモニターしたりするのに一番適した方法は、年間計画表(YPI:Yearly Planning Instruments 表14-1)を使うことである。紙に書いてあれば、自分の作ったターゲットが実行可能であるか、現実的であるかどうがよくわかり、すべての要素を入れることができる。さらに頭の中に大きな図式としてとどめておくことができ、ぎりぎりになるまでトレーニングをやらないということもなくなる。




表14-1 Yearly Planning Instruments(YPI)

この章の最後につけた白紙のYPIの拡大コピーを取って、内容を決めておこう。変更は必ず起こるので鉛筆で書いたほうがよいだろう。YPIを記入するためのいくつかの説明をしておこう。
・年月:1年のどの月から初めてもいい。月の横に該当年度を記入しておく。
・レガッタ:参加したいと思う全てのレースをリストアップする。参加できるかどうかわからない時には()書きにしておこう。自分にとって大事なレース(つまりピークに持っていきたいレース)は目立つように記入する。
・ターゲット:どのレースでも現実的にフィニッシュしたいポジションを書いておく。たとえば、自分のターゲットが上位10位であるときには適当な場所に「10」と記入する。
・段階(フェーズ):自分のトレーニングを、準備期間、レース、移行期に分け、それぞれの段階の期間をわかりやすくしておく。
・1週あたりのトレーニング時間:どの期間に対しても1週あたり行いたいトレーニング時間を書いておく。
・テスト:フィットネス・テストや生理学テストを受ける週に×印をしておく。
・試験/仕事:他にやらなければならないことを調整し、適切なトレーニング計画を立てるために試験や仕事のスケジュールも表に記入しておく。
・スピード、ボートハンドリング、戦術・戦略、フィットネス:これらのセイリングの要素に集中してトレニーングする期間を記入する。記入されていない期間でも、それは単に集中してはやらないというだけであることに注意しよう。フィットネスには回復も含まれているが、心理的回復戦略を無視してはならない。マッチ・レーシングのスタートなど自分がさらに追加したい部分があれば行を増やす。
・準備:修理や擦り切れたシートの交換、新しいシステム、セイリング・ギアの試用などボート準備の時間をとっておこう。
・マインド:これは心理学的スキル(メンタル・リハーサルや前向きな自己暗示など)をトレーニングしたり、セイリングに関する本やセイリング関連雑誌を読んだり、セイリング・ビデオを見たりする部分だ。

 YPIは全体像を示すだけなので、細かくは書かない。詳細な記録や分析にはトレーニング・ログブックを作り、レースの詳細や行ったトレーニングを記述するのがよいだろう。YPIをこのログブックに挟んでおくと、いつも全体のゲームプランがわかる。

期間区分(periodization)


トレーニングにはサイクルを持たせるが、それぞれのサイクルでトレーニング量や集中度合が異なる。これを期間区分と呼ぶ。どのサイクルの最初の期間もトレーニングの集中度合は低いがトレーニング量は多い。サイクルを進むにつれてトレーニング量は減少するものの集中度合はステップアップする(図14-1)。期間区分にはいくつかの理論的な利点がある。
・人間のパフォーマンスは本来サイクルを持っているので、1年中ピークの状態を保つことは不可能だ。期間区分によってこの固有のサイクルにトレーニング量や集中度合を合わせる。つまりまだ元気なときはトレーニングをヘビーにし、疲れたら軽くするのだ。
・変化は気が抜けてしまうことを防ぐ。
・サイクルの最初の、量は多いが低集中度のプログラムによって、その後の高集中度トレーニングのコンディションを整える。
・レース・フェーズ以前の低量・高集中度トレーニングによって、オーバートレーニングの危険性を回避し、ピークにもっていくことができる。

ンプルの年間計画表YPIでは、年間トレーニング計画はひとつの大きなサイクル(マクロサイクル)から成っている。モンスーンがあるような地域にいるならば、北東と南西のモンスーン・シーズンに合わせて2つのマクロサイクルを作ってもよいだろう。どのマクロサイクルも2-3ヶ月程度で終了するようなメソサイクルにわけることができる。そして各週はマイクロサイクルである。注意しなければならないのはサイクルの最初の段階ではトレーニング量を増加させるために多くのアクティビティ(上りのセイリング、ジムでの筋肉肥大トレーニング、エアロビクス・トレーニングなど)を取り入れなければならない。このような大量のトレーニングはサンプルYPIでは1週当たりのトレーニング時間を比較的多くとることで示されている。

 各メソサイクルの中でのトレーニング・プログラムはさらに以下のように分類される。
・準備フェーズ:このフェーズはレースの準備期間だ。最初はエアロビクス・トレーニングや直線スピード、ボートハンドリング技術のような基本的なことを練習する。そしてその後徐々に戦術やスタートをマスターする。このフェーズの2週間から数日前の期間では大きなレースに備えて回復するようにトレーニング量を半分程度まで減らす。準備フェーズは非常に負担が大きいので、適応プロセスでのトレーニング量に追いつくように、それぞれ4-6週間につき1週の非負荷期間をとるのがよいだろう。
・レース・フェーズ:ピークに持っていきたい大きなレースがこの期間に当たるようにする。ここでの焦点は準備からパフォーマンスに移行する。身体的トレーニングには重点をおかず、ジムではメインテナンス程度のトレーニングにする。
・移行フェーズ:これは2-6週間程度の休息フェーズだ。セイリングから離れて気分転換に他のスポーツをしよう(活動的休息)。移行フェーズが長ければ、メインテナンス・プログラムを継続しよう。だが、いつものジムでのトレーニングとは異なったもの(例えば、サーキット・ウェイト・トレーニングや水を使ったトレーニングなど)にして、次の準備フェーズが始まったときに気抜けをしないようにしよう。

図14-1 準備期間におけるトレーニング量と集中度の変化

回復

ハード・トレーニングだけではベストの結果は生まれない。トレーニングに適応するまでの時間も必要だ。回復の原則は、疲労を減少させる練習を取り入れることによって行ったトレーニングの効果を生むことだ。つまり、厳しいトレーニングと適切な回復が最善の能力向上をもたらす。
 よい回復戦略というのはポジティブなトレーニング適応力を加速させるだけでなく(図14-2)、さらにトレーニングを行う潜在能力を助長し、そして病気やケガの危険性を減少させる。


表14-2 効率的な回復戦略はトレーニング順応力を加速し疲労を減少させる
 
オーバー・リーチングとオーバー・トレーニング
訳注)オーバートレーニングとは、トレーニング負荷と休養のバランスが崩れ、競技パフォーマンスが低下すること/オーバーリーチングとは、トレーニング負荷と休養のバランスの不均衡により一時的に競技パフォーマンスが低下すること

 ハード・トレーニングの期間の後には急速なパフォーマンスの減少が続く。これは短期間では自然のことで、たとえばオーバー・リーチングの場合には短期間の休息でパフォーマンスは正常か正常以上となる。しかし、過大なトレーニングや長期間の集中はオーバー・トレーニング症候群を招く。こうなってはパフォーマンスがベースライン・レベルに戻るのに2週間以上かかってしまうことになる。だからオーバー・トレーニング症候群というのは全てのアスリートが回避すべきものだ。トレーニング量や集中度が低くても、アスリートは勉強や仕事、遠征などの追加的ストレスにさらされているためにオーバー・トレーニング症候群になることもある。
 パフォーマンスへのプレッシャーのせいで、オーバー・トレーニングによるミスを引き起こし悪い結果を招くことがありがちだ。このような間違いを回避するために、セイラーは次のようなオーバー・トレーニング症候群の前兆に気をつけなければならない。
・モチベーション(意欲)の喪失(燃え尽き)、心理的疲労、食欲不振、気分の変化。
・睡眠不足や不眠症。
・脈拍の増加。
・体重減少。
・ケガの増加。
 血液からオーバー・トレーニング症候群の症状を発見する試みがおこなわれているが、アスリートの主観的感覚に勝るものはない。セイラーは上記の症状に注意しなければならない。
 
回復のための戦略
回復練習はトレーニングの中核たるものでなければならない。オーバー・トレーニングの兆候が出ていなくとも、回復練習によってポジティブな適応力を高めよう。効果的な回復戦略には以下のようなものがある。
・液体とカロリーの補給:ポジティブなトレーニング適応のためには筋肉への養分補給や水分補給が大切である。レースやトレーニング・セッション終了ごとに炭水化物を含む飲食物を多く摂取し、筋肉増強のようなポジティブ適応プロセスのためのグリコーゲンや水分がなくならないようにしよう。
・ストレッチ:ストレッチはトレーニングの前後だけではなく、夕方にも行う。全ての箇所をストレッチすることで痛んだり、疲れた筋肉を楽にさせよう。
・水治療:熱いのと冷たいシャワーを交互に浴びたり、温泉と水風呂を使って、筋肉の血流を増加させ乳酸を取り除くのを早めよう(コラム参照)。前後と最中にはたくさん水分を取ること。同時に重要なのは温泉、シャワー、風呂にかける時間を制限すること。そうしないと脱水症状となったり神経的疲労を引き起こしてしまう。正しくおこなえば、水治療により精神的には機敏なままリラックスすることができ、眠くもだるくもならない。
・スポーツ・マッサージ:これにはふたつの生理学的利点がある。第一に、マッサージは局所的な血流を増加させるので、乳酸を取り除きながら疲労した筋肉に酸素と滋養物がより運ばれることになる。第二に、柔らかい組織を温めたりストレッチすることで一時的な柔軟性を得ることができる。生理学的利点にはムードの向上も含まれる。アスリートは疲労を減少させ、よりリラックスすることができるのだ。
・リラクゼーション・テクニック:瞑想、呼吸、音楽、太極拳、リラクゼーション・マッサージ、浮遊などがよく使われるテクニックだ。頭脳への刺激量を減少させることによって、穏やかな気分になりリラックスすることができる。浮遊以外は特別な施設や準備も必要なく、毎日行うことができる。これらをおこなう理想的な時間は就寝のすぐ前で、そうすると一日の出来事からすぐにスイッチが切り替わり、よい夢を見ることができるのだ。

 サンプルYPIからどのトレーニング・サイクルでも回復が重要なものであることがわかる。準備フェーズの間はトレーニング量が多く、集中度合も高いので、回復はトレーニングを継続するために役立つ。トレーニング減少期間では、回復戦略によってレースにおける速やかな活性化ができる。レース・フェーズでは、トレーニング量は多くはないが集中度合は高く、また心理的ストレスも多い。こんなときにも回復は重要なのだ。

 よいトレーニング計画によって進歩を達成することができる。そして結果がついてくる。よい天気や好ましいシフト、運などは必要なくなる。なぜならどんな状況にも準備ができているからだ。

風呂・シャワー・温泉のガイドライン
1.それぞれのセッションの前後と最中に水分を補給すること。
2.あらかじめ体を石鹸でよく洗っておくこと。
3.温度:温(39?39度)/冷(10-16度)
4.時間:シャワー=温1-2分、冷10-30秒で3回繰り返す/温泉・風呂=温3-4分、冷 30-60秒で3回繰り返す。
5.シャワーを浴びて水分補給で終了。