13章 セイラーのためのスポーツ医学の基礎
content by Ben Tan
revied by Tullio Giraldi, Teh Kong Chuan, Patrik Goh, and Saratha Bhai Krishnan


レーザーのような身体的要求の厳しいセイリングでは、心肺機能面での持久力、無酸素運動能力、筋力、柔軟性、機敏さなどが養われる。こうした健康面での利点に加え、レーザー競技は幸い、比較的外傷の割合が少ない。レーザーでは40ノットの風の中でもほとんど事故なくレースが行われる。というのも、水が衝撃を和らげる上に、船体とリグが軽いおかげで、通常は重傷というほどの外傷にはいたらないからだ。
 それほど多くはないが、レーザーセイラーも身体的な障害を被ることがある。ハイクアウトをしなければならないので、使いすぎによって起こる障害はつきものだし、また、時折小さな事故も起こることはある。この章ではセイラーに最も共通してみられる身体的な障害と、内科的な疾患に焦点を絞って述べていく。また、競技セイラーは国際大会で競技する場合、ドーピングの取り締まりにあうこともあるので、不透明な問題であるドーピングについても触れておきたい。

セイリングにより起こる障害


 ディンギー・セイラーにとっては、使いすぎによる筋肉の損傷と痛みが最も一般的な障害であり、その次に事故による外傷、切り傷や皮膚の擦過傷がある(表13-1)。レーザーの場合は、ボートにはあまり鋭い角がなく、ストレート・レッグ・ハイキングを強いられるために、障害のパターンは使いすぎによる損傷が多くなりがちだ。

表13-1 1998年アジア大会でのシンガポール・セイリング選手(いくつかのディンギークラス)の外傷と内科的疾患
 

                              診察数       割合(%) 
ケガ    
筋肉の使い過ぎ/痛み 23 39.7
切り傷、すり傷、マメ 1 9.0
打撲傷 1
1.7
捻挫 1 1.7
その他 7 12.7
内科的疾患      
上気道・呼吸器感染 8 13.8
下痢 2 3.4
発疹 1 1.7
その他 4 6.9


近年、研究者たちは身体的に最も過酷な、オリンピックのヨット競技でのハイキングに焦点をあてた調査を行っている(写真13-1)。そこでは予想通りにハイキングは身体に緊張を強いるものであることが示されている。
・レーザーのハイキング・ストラップにかかる上向きの力のピークは828N(すなわち、84kgの重さに相当する力)を記録している
・ハイキングは等長性(等尺性)の運動(筋緊張の持続中に筋肉の収縮が起こらない)であるため、筋肉への血流が減少し、栄養をたくさん必要としている筋肉は飢餓状態となる
・ハイキングは静的な運動であることから、動脈圧(血圧)の平均値は48%上昇する
・ハイキングの緊張によって通常最も影響を受ける関節は下背部と膝と足首である


写真13-1 厳しいハイキング

下背部の疼痛
下背部は、脊椎にたくさんの力が作用する体の中でも複雑な部分だ。解剖学的にも生体力学的にも複雑であるために、特定の病状と何らかの生体力学的な要因を明確に関連づけることは難しい。しかしながら、経験的な観察や知識に基づいた所見を述べることは可能だ。

下背部疼痛の原因
@ハイクアウトに用いられる筋肉の主なものは、腸腰筋(iliopsoas)、腹筋と大腿四頭筋だ(図13-2)。脊椎に作用する力のうちのひとつに腸腰筋の引っ張る力がある。体幹を屈曲する時に、力の強い腹筋と大腿四頭筋(腹筋よりも関与している程度は少ない)によってサポートされていない場合には、腸腰筋が下部脊椎を過度に引っ張らなければならなくなり、おそらくこのために下背部の疼痛が生じると考えられる。
 もうひとつ脊柱にかかるストレスとして重要なものには、椎間板(脊椎の間にある構造物)にかかる体重が関連している。クラウチング(かがむこと)は椎体を圧縮し、脊椎の前面に負担がかかる(図13-3)。波などのために揺れの激しい海面では、この圧縮力が強くなっていて椎間板の破裂(崩壊)や椎間板の脱出(slipped disc=椎間板変位、ぎっくり腰)を起こす可能性がある。同時に脊柱の後方部の構造物に張力がかかった状態となり、いっそう痛みを生じる原因となる。ハイクアウトしている時に、胴体を捻ったり、乱暴に外方や後方に体を投げ出したりすると隣り合った椎骨の間にある関節を圧迫することになる。


図13-2 ハイキング時に主な筋肉にかかる力(矢印)



 図13-3 クラウチング姿勢では脊柱が前に曲がり、前方部、特に椎間板に過度の圧縮力がかかり、後方部の腱や筋肉には過度の張力(伸展力)がかかる。
訳注》椎間板(intervertebral disc)は上下に隣りあった椎体の間にあって、椎体を互いに連結している。椎間板は円板状で中心の髄核(nucleus pulposus)と周縁部の線維輪(anulus fibrosus)からできている。髄核は水分に富むゼリー状の柔らかい組織である。線維輪は線維軟骨が円板の外周に平行な輪状の層板構造を作っている。線維輪の後部に損傷や裂隙が生ずると髄核が後方に突出し椎間板ヘルニアの状態となる。

図13-4 ハムストリングス(大腿後部の筋肉)が柔軟であれば、下背部はまっすぐのまま保たれる。
 左:ハムストリングスが固いため、股関節での屈曲が制限され、前方に手を届かせるためには下背部を曲げなければならなくなっている。
 右:ハムストリングスが柔軟な場合は、股関節を屈曲するだけではるかに前方に手を届かせることができて、しかもこの時、下背部はまっすぐのままに保たれている。

予防
 上記のような、障害を起こす機構からわかるように、セイリング中の下背部に起こる問題を避けるためには、背側、腹側を取り巻く筋肉の状態を整えて、胴体の安定性をよくすることと、よい姿勢をとることが不可欠だ。以下のような予防処置をとれば、腰椎にかかるストレスを最小限にとどめるために役立つだろう。
・ハムストリングス(大腿後部の筋肉)の柔軟性を向上させること。こうすることにより、股関節をより大きく屈曲することができるようになって、腰椎をまっすぐのまま保つことができるようになり(図14-4)椎間板にかかる圧縮力は最少となる。
・腹筋を強化すること。強い腹筋は胴体を屈曲する際に、腸腰筋を助け、腹腔内圧を上げて下背部を支持する助けとなる。
・ハイクアウトをする筋肉の調子を整えること。腹筋と股関節の屈筋(腸腰筋)、大腿四頭筋の状態がよければフラット・ハイキングすることができる。水平な位置では、上体を起こした状態や、クラウチング姿勢の場合よりも脊椎にかかる圧縮力は少ないくなると考えられる。
・いつでも背中の姿勢をよくしていること。セイリング中にはクラウチング姿勢を避けること。陸上でも、船底を掃除するためにハルを裏返しにする時や、水からボートを引きあげる時など、背中をまっすぐに保つようにすること。背中をかがめる代わりに股関節を屈曲させるようにする。
・対立する筋肉群(拮抗筋)を鍛えること。バランスのとれた筋肉組織を作り上げるためには、対抗する筋肉も強化することが大切である。腹筋と股関節の屈曲筋は、脊椎を屈曲させる作用をするが、それらの拮抗筋である傍脊椎筋群(paravertebral muscles)も同時に、背中を伸展させるエクササイズを行って強化されていかなければならない。

膝蓋と大腿の痛み
 セイラーの膝の最も一般的な病理は膝蓋と大腿の痛みである。この痛みは、膝蓋骨(patella)と大腿骨(femur)の下端との間の関節に生じる痛みに関係する。膝をほとんどまっすぐに伸ばしてハイクアウトした場合には、膝蓋と大腿の間の圧縮力は体重の2倍以上になると推ェされる。この位置では膝蓋骨と大腿骨の間の接触面は小さくなっており、そのため作用する圧力は強くなる。膝の屈曲角度が大きくなるにつれて圧縮力は増大する。

原因
 膝蓋骨が大腿骨にある溝にうまく収まっている場合には大きな圧縮力にも耐えることができるが、もしそうでない場合には、関節は過度に摩耗し、磨り減らされ引き裂くような力を受けることになり、痛みと潜在的な腫脹を起こすことになる(図13-5)。他に様々な要因がある中でも、関節内部での膝蓋骨の位置関係と膝蓋骨が動く経路は腸脛靭帯(iliotibial band《ITB》)の緊張度(張り具合)と内側広筋斜頭(vastus medialis oblique《VMO》)の筋の活動度により決定される(図13-6)。ITBは強力な結合組織よりなる帯で、股関節の上方から膝の直下まで伸びて、膝蓋骨の外側縁に繊維状に結合している。ITBが固く張りが強い場合には膝蓋骨を外側に引っ張る傾向があり、VMO筋の活性が高い時は膝蓋骨を正中方向に引っ張るように働く。そのためITBが張っていてVMOが弱い場合には、膝蓋骨は外側に転移してしまい、大腿骨の下端との間で過度の摩擦力を受けることになってしまう。



図13-5 膝関節のX線写真(水平面観)。膝蓋骨(patella)と大腿骨を示す。(上):膝蓋骨は大腿骨の中央にある。(下):膝蓋骨と大腿骨の痛み(patello femoral pain)の症状を持つ年配の患者のX線写真。膝蓋骨は外側方に転移しており、損傷(骨関節炎)の初期の兆候が見られる。



図13-6 膝蓋骨と大腿骨の痛みに関連した構造。左:腸脛靭帯(iliotibial band《ITB》)は腰の上から膝へ伸びる強く幅広い結合組織。右:内側広筋斜頭(vastus medialis oblique《VMO》)は膝蓋骨の内側の端に付いていて、その横方向の運動をコントロールし中間に保つ。
訳注》腸脛靭帯(ITB iliotibial band)=大腿の筋全体を被う大腿筋膜は、大腿の外側面で特に肥厚して腸脛靭帯を作っている。靭帯は腸骨稜から下方に向かって垂直に走り、脛骨の外側顆に至る帯状の腱様膜である/大腿四頭筋(quadriceps)=膝関節の強力な伸筋。1個の直筋と3個の広筋より成る。大腿直筋、外側広筋、中間広筋、内側広筋m.vastus medialis(VMO)に相当する。

予防
 以下に、膝を守るための注意点を示す。
・ハイクアウトする時には、つま先を内側に向けることは避けた方がよい。つま先を内側に向けた位置では、大腿四頭筋の外側部分が強く働くようになり、膝蓋骨は大腿骨にある溝の中央よりも外側方向で移動することになってしまうからだ。
・ITBとその周りにある(ITBに付着する)筋肉のストレッチを行うこと。ITBは非常に強い力を発揮するので、その張力を抑えるために定期的にストレッチをすることが大切である。大臀筋(Gluteus)、梨状筋(piriformis)、大腿四頭筋(quadriceps)は、すべてITBに付着しているので、これらもITBと同様にストレッチする必要がある。ハムストリングスのストレッチが十分に行われていれば、膝関節を完全に伸ばすことができ、膝蓋骨と大腿骨の間の圧力を小さくすることができる。必要なストレッチのやり方については、図10-2(10章)を参照のこと。
・VMOを鍛えること。これらVMOの筋肉は、つま先を少し外側に向けた位置にしていると働かせやすい(力を入れやすい)。ウォールシットや膝の伸展、スクワットなどの大腿四頭筋を強化するエクササイズをしている際にも、意識してVMOを働かせるようにした方がよい。最も大切なのはハイクアウトしている時にVMOが確実に働いている状態にしておくことである。
・膝蓋骨と大腿骨の痛み(Patellofemoral pain)の徴候が見られたり、その症状がある場合には、疼痛を悪化させるような運動は避けること。体重を支えた状態で膝の屈曲を繰り返すような運動、たとえば走って階段を登り降りすることや、ジムでステッパーを使うこと、ジャンプするエクササイズなどは、膝蓋骨と大腿骨の痛みを悪化させてしまう。現に膝蓋骨と大腿骨の痛みがある場合や、痛みが出やすいという状態であれば、サイクリング(膝を曲げる動作を含んでいるが、全体重がかからない)や水泳(平泳ぎは避けること)に、トレーニングを変えた方がよい。
訳注》梨状筋(piriformis)=仙骨前面の外側部から起り、大坐骨孔を通って、大腿骨の大転子に付く。

足首(くるぶし)の伸筋腱の腱炎(tendonitis)

伸筋腱は足首の前面にあり、頸骨(すね)のすぐ隣にある筋群から起こり、つま先に向かって伸びている。これらの腱は足関節とつま先を上方に曲げるのでハイクアウトした時に伸張する。
原因と予防
 つま先でハイクアウトする場合は、伸筋腱には強く引っ張られる力が働く。一方、足関節の所でハイクアウトすると、腱の上方にあるハイキングストラップと腱の下にある足関節の間に挟まれて圧縮されることになる。いずれの場合にも、腱は炎症を起こしやすく、特に事前に段階的トレーニングをしないで極端なハイクアウトをすると起こりがちだ。
予防
 長時間にわたり、つま先からフラット・ハイキングができるようになるまでには何年もかかる。トレーニングをしだいにステップアップして行っていけば、くるぶし(足関節)と腱はハイクアウトのストレスに適応していくだろう。固いブーツを使えば、足関節を支持し、クッションの役割もしてくれる。また、パッドのついているハイキングストラップを使えばさらに衝撃を和らげてくれる。

筋肉の過労(使い過ぎ)と筋肉痛
遅発性の筋肉痛(DOMS:delaywd onset muscle soreness)の特徴は、エクササイズの後で筋肉が硬くなり、痛むことである。普通は激しいセイリングをした日の1-2日後に強く現れて1週間以内に消退する。トレーニングの本質的な部分であり、程度が穏やかなものであれば当然の状態だ。しかし極度に強ばった状態、たとえばイスから立ち上がるのが難しくなるほどの場合は逆効果だ。筋肉の過緊張、過労はもっと深刻で、回復にはいっそう長期間かかる。セイリングの場合には筋肉の過労は、短距離走者が短距離競争の際に感じるようなハムストリングスのつっぱり感のように劇的に現れるものではなくて、一日の終わりになってのみ感じられる性質のものである。
原因
 レーザー・セイラーの場合、ハイクアウトしている間に大腿四頭筋にかかる最大の力は800N(およそ80kgの重さに相当する)を超えている。また一方シートを引く時に肘関節の屈筋にかかる最大の力は280N(およそ28kgの重さに相当する)を超えている。このような大きな力は別にしてもハイクアウトが静止している性質のものであることや、メインシートを引いて同じ位置で止めておくということは、筋肉に負荷、緊張がかかっている時に筋肉への血液の流れ(血流)を妨げることになっている。筋肉の許容範囲を越えた負荷がかかると過労もしくはDOMSが起こる。DOMSや過労になりやすい筋肉はハイクアウトする筋とシートを引き込む時の筋肉だ(つまり、腹筋、股関節の屈筋、大腿四頭筋、足関節を背屈する筋、下背部の伸筋、肘関節の屈筋、前腕の筋群)。
予防法
 陸上でのトレーニングと、水上でのハイクアウトを組み合わせて、徐々に上記の筋群を強化していけば、筋肉の損傷を予防することができる。数日間ずっと軽風が続いた時は陸上でのトレーニングを行って筋肉を良い状態に保つ方がよい。練習量が多くて密度の高いトレーニングを行っている時にはふだんよりも、筋肉を回復させる方法、ストレッチやスポーツマッサージ、温水浴などに注意を払うべきだ。


切創、擦過傷、打撲
筋肉の過労と筋肉痛に次いで最も多い傷病は事故による損傷、つまり打撲、切創、擦過傷である。特に初心者には、ブームとセンターボードは危険だ。
原因と予防
 ほとんどの事故は避けられるもので、大切なポイントは事故を未然に防ぐ(事前に対策をたてておく)ことにある。
・事故は疲れている時に起こりやすい。疲労したセイラーは体が思い通りに動かず、動きが鈍くなっている。「ボートを横切って移動する時には体を曲げて低くかがむ」といったふだん練習している決まった動作からはずれたことをやってしまいがちで、そのために頭にブームの痛い一撃を受けてしまうことがある。幸い、レーザーのブームはキールボートのように重くはない。タックの時にハイクアウトストラップに足を掛け損なったり、メインシートを離してしまったりといったことも、セイラーが疲れている時には起りがちである。
・沈した時はバランスを保ってガンネルに乗ってとどまる方がよい。後ろ向きに落ちた場合にはセイラーはセンターボードに当たり息が止まることもある。前方に、セイルの上に落下する方が安全だがその場合はセイルを傷つけてしまう。
・早く走っていて沈した場合にガンネルにとどまることは難しい。前方に移動していく時にはガンネルで手を切らないように、沈して前方に放り出される場合にはマストに注意する必要がある。
・メインシートを引く時に歯を使ったり、シートを手に何回も巻きつけておくといったことはやめた方がよい。
・コーチボートや他のレーザーの舷側に近づいている時には指をガンネルにかけないようにすること。
・出着艇の時はケガをする危険がかなり高くなっている。スロープで水の中に滑って入っていくのはボートだけではない。スロープの多くはつるつる滑るか尖ったフジツボで覆われている。つまずいて転がり落ちることはよくあるが、そんなことにならない方がよい。ボートを水から引っ張り上げる時には背中をまっすぐに保って、背中を使って引くのではなく、股関節を使うようにすること。
治療
 海水はある種の生物を含んでおり(たとえばビブリオ・バルニフィカス、ミコバクテリウム・マリヌム)、開放創に汚い感染症を起こしやすい。レースやトレーニングを続けなければならないセイラーには、傷口を清潔に保ち感染の危険を減らすためハイドロコロイドの被覆材(写真13-7)が適している。
訳注》ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus):グラム陰性通性嫌気性桿菌、乳糖分解性の桿菌。沿岸海水に生息し、肝硬変など基礎疾患のある人に経口感染、創傷感染を起こす。敗血症やショックなど経過が速く重篤な経過をとる場合が多い。発生頻度は低いが死亡率が高い。/ミコバクテリウム・マリヌム(Mycobacterium marinum):非結核性抗酸菌のひとつ。水中に生息し31~33℃で良く発育する。魚類を扱う人に多くみられ、皮膚にプール肉芽腫などの病変を生ずる。
[ハイドロコロイド被覆材が適している理由]
・セイリング中に海水中のバクテリアによっておこる外因性の汚染に対して優れた遮蔽効果がある。
・創部を摩擦や圧力から保護する。
・湿潤な環境を作り出し、再上皮化(すなわち創が上皮細胞、皮膚細胞によって閉鎖されること)の進行を早めて、また免疫細胞が創部をきれいにするのを促進するような効果がある。
・創部が伸展されたり、創部に接触した時に生じる疼痛を軽減する。
・通常用いられる、乾燥したガーゼの被覆材に比べて交換する頻度は少なくてよい。



図13-7 閉鎖被覆法
(1) もしあれば、滅菌された水で創部を洗浄するか滅菌された清拭綿などで拭いて目に見える汚れ(砂など)を取り除く。
(2) もしあれば、アルコールをつけた消毒綿棒などで清潔にし、創部の周囲を乾燥させる。この時サンスクリーンや油分などは取り除くようにして必要ならば剃毛して被覆材がしっかりくっつくようにする。
(3) 閉鎖性被覆材(たとえばデュオダームなど)を切って創部に張り付ける。被覆材は創部の縁を3cm程越えて広がるようにしておく。
(4) 過酷なセイリングの間、被覆材が剥がれないように、透明な粘着力のある被覆材、たとえばテガダームのようなものを、さらに上から貼っておく。テガダームなどの縁が閉鎖性被覆材の縁からさらにもう3cmは確実にこえるようにする。

 打撲と他の軟部組織の損傷はRICEの公式に従って処置し、腫脹と疼痛を軽減させるようにする。
・Rest 傷害を受けた部分を安静に保つ。
・Ice 最初の2日間は受傷部を4-6時間ごとに、20-30分間冷却し、疼痛と炎症を鎮める。
・Compress 弾性包帯を巻いて圧迫し、腫脹を抑える。
・Elevate できれば腫脹を少なくするために受傷部を挙上しておくこと。

マメ(皮膚の水疱)とタコ(皮膚硬結)

 メインシートによる摩擦がもとで『ロープやけど』をしたりマメ(みずぶくれ)ができることがある(写真13-8)。マメができたら、清潔な針でつぶし、テープや耐水性の絆創膏を貼って、痛みを和らげて治癒を促進するようにする。そのうちに、手の強く擦れる部分にはタコができて自然に防護作用を持つようになる。しかし、セイリングする頻度があまり多くない場合や、風が強い時にはさらに防護策を加えると役に立つ。柔らかいレザーでできたセイリング用手袋は値段が高い。安上がりな解決法としてはゴム製の食器洗い用の手袋の指先を切って使うことができる。ゴム手袋は長持ちしないが簡単に取り替えることができる(訳注:日本では「グリップL」が手軽に入手できる)。手袋をするのがあまり具合がよくないと思う人には、代わりに指にテープを巻いておく方法もある(写真13-9)。タコも厚くなりすぎるとひびが入ったり、タコの下に水疱ができたりすることがある。そうなる前に軽石(ツールボックスにある紙やすりは安上がりな代用品となる)でタコを薄く削ったり、鋭利な刃物で注意深く表皮を切り取っておくとよい。

 ボートに対しての感覚を磨くためにセイリング用ブーツをはかないことを好むセイラーもある。その場合、ハイキングストラップとの間で摩擦力が強く働いて、足部と足関節の上面を覆う皮膚が肥厚したり皮膚に色素沈着を起こしたりしてくる(写真13-10)。皮膚にできた小さなひび割れからかゆみや痛みが起こるので、ひび割れを防止するために患部には日ごろから保湿クリームを塗っておくとよい。

写真13-8 セイリングによりできたマメ

写真13-9 水疱を防止したり、できてしまった水疱に対しての処置としても指にテープを巻く。しっかり握れてやりやすくするために指を少し曲げた状態でテープを巻き、関節の背側面にはテープを巻かない。品質のよい酸化亜鉛テープを3-4層巻いておけば、まる一日中もつだろう。

写真13-10 レーザーセイラーの足。足関節上面の皮膚が肥厚し、色素沈着がみられる。このセイラーはつま先からハイキングしていないことが見てとれる。