12 実戦的セイリング心理学=重要なツールキット
by Trisha Leahy

 この本をこれまでじっくりと読んでくれば、もうすでに理解できたと思うが、レースで成功を収めるためには、ただボートに乗りこんで、熱狂的にスタートラインに向かうだけでは十分ではない。その前には、艤装、ボートの維持、ボート・ハンドリングの技術、戦術的知識、栄養学など、たくさん準備することがある。また、身体的能力や精神面での健全さも必要だ。

*あなたがどのくらい精神的に強いか、以下の質問にYes/noで答えなさい。
・練習のときにはよくできるけれども、同じレベルをレースで発揮できない。 
・レース前の不安がスタートに際して消極的な影響を及ぼすか。
・ボートを上手に走らせるのに集中する上で何か問題はあるか。たとえば、自分の前にいる特定のボートの挙動が気になってボートを走らせることに集中できないなど。
・スタートで失敗してしまったり、大きなシフトを逃してしまったり、マークにタッチしたりした後にふたたびレースに集中することが難しいことはあるか。
・競争相手が自分よりうまいか、へたかによって、自分の成績が左右されるか。
・レース結果がよくなかったとき自信を喪失するか。
 上の質問のうちいくつかにyesと答えているならば、精神的フィットネスのトレーニングを行うと効果がある。自分自身が何を考え、どう感じるかということが、うまく走れるかという能力に影響を与える。精神面で強くなれば、自分の考えや感情をコントロ?ルすることができる。そして自分のベストが発揮できるようになる。それは身体的フィットネスを得ることによって自分の動作をコントロールできるようになることと同じだ。そして、身体的フィットネスを得るためにはは継続的なトレーニングが必要だが、精神的フィットネスも同様なのだ。



精神面のスキルとスポーツにおける成功
 Orlick&Partington(1988)は成績と精神的なスキルとの間に因果関係があることを証明した。カナダのオリンピック選手がレースの前に各人の身体的、技術的及び精神的準備状態がどのくらいか評価させたところ、自己ベストを出した選手(メダリストも含む)は精神的な準備状態について最高位のレーティングをつけていた。同様に、1994年のアジア大会に参加したシンガポール選手に対しての研究が行われた。彼らも身体的、技術的、戦術的そして精神的準備状態についての評価を問われた。
・メダリストは精神的および技術的な準備状態が、身体的および戦術的準備状態よりも高い評価であった。
・メダルを取れなかった選手は、自分の身体的な準備状態は相対的に高いと感じていたにもかかわらず、精神的な準備状態は最低の評価であった。
 これらの発見は精神的な準備状態が好成績をとるために重要な要素であることを示唆している。

 この章では、精神的フィットネストレーニングのための、基本的な心理学ツールキットについて述べる。ほかのツール同様、求める内容によって、目的にあったツールと回数を使うことになる。この心理学的ツールキットの中でも重要なツールは、ゴール設定、メンタル・リハーサルそして、ポジティブな自己暗示である。


ゴール設定


ゴール設定というのは、明確で詳細なレースコースの地図を描くことにも似ている。スタートラインがどこにあるのかがわからなければ、スタートできない。上マークや下マークがどこにあるのかわからなければ正しいコースにいるかどうかもわからない。設定すべきゴールはふたつあり、それは「結果のゴール」と「プロセス・ゴール(過程でのゴール)」だ。
 「結果のゴール」とは、その名の通り、結果を定義するということだ。たとえば、勝つこと、そしてオリンピック・チーム・メンバーに選出されるなどは結果に関するゴールだ。長期的な結果のゴールを設定することは楽しく、そして動機付けともなるが、ひとつひとつのレースの成績をよくすることには役立たない。結果のゴールだけを設定することは、フィニッシュ・ラインがどこかを知ることと同じで、それによって上マークがどこにあるかがわかるわけではない。結果のゴールは間違ったコースにセイラーを導くこともある。なぜなら、結果のゴールというのは、成績を上げるために必要な情報を含んでいないからだ。さらに結果のゴールはセイラーが完全にコントロールできるものではない。たとえ自分自身が最高のセイリングをしたとしても、その日他のだれかがもっとよいセイリングをすればその人が勝つ。相手の成績をコントロールすることはできないが、自分の成績はコントロールできる。
 ここで「プロセス・ゴール」が問題になる。プロセス・ゴールが答えてくれるのは、どうやったら自分の望む結果を手に入れられるのかということだ。過程でのゴールとは、今行うべきこと、やらなければいけないこと、そして自分がコントロールできることは何か、ということに注意を集中させるためのものなのだ。もし、ゴールが特定的で、現実的かつ挑戦的であり、さらにコントロール可能なものであれば、そのゴールは毎回のトレーニングセッションを質の高いものにする。プロセス・ゴールはレース中も有効だ。たとえば、上りレグで、相手が風下先行している場合を想像してみよう。あなたはそのボートを抜こうと思う(つまり結果のゴール)。風下のボートに気を取られ、結果に捕われてしまう。その結果、突然相手の乱れた空気に吸い込まれ、どうしてこんなことが起こったのかと自問することになる。結果のゴールはこう言った状況を回避するための方策を教えてはくれない。結果のゴールに気を取られるあまりに基本的な動作を行うことができなかったのだ。この場合、結果のゴールというのは破壊であって、適正なツールではなかった。プロセス・ゴールがあったなら、何をすべきかに、どう対処すべきかがわかっただろう。以下の練習を行ってみよう。

ゴール設定練習

・トレーニングのためのゴール
 長期的な結果のゴールを書き出してみよう。楽しみながら、夢を見るような感じで。次にコーチと相談して現実的な長期の結果ゴールは何であるかを見極め、さらに重要なのは、段階的にその結果に到達するための長期および短期の過程でのゴールの設定だ。コーチに定期的にチェックしてもらい、ゴールを修正していけば、適正な方向に向かっているか確かめられるだけでなく、膨大な仕事に圧倒されることなく学んだり上達する過程を楽しいものにすることができる。
・レース用のゴール
 まず、what-if「もし……だったら」のリストを作ろう。たとえば、「スタートのあとで埋もれてしまったらどうしよう」とか、「シフトの取れないサイドにいたらどうしよう」とかだ。次にコーチと話してそう言った場合レースをどうしたらうまく戦えるか具体的なプロセス・ゴールを作るのだ。