11.セイラーのための栄養学
文=Gary Slater![]()
レース前の準備
レース日の前にとる飲食物はレース・パフォーマンスに大きな影響を与えるので特別な配慮が必要だ。レース前の食事の目的は、エネルギーを保存し、水分の状態を最適にすることで、腹部の不調も防がなければならない。以下のガイドラインに合う食事をとるように注意すること。
・ 高炭水化物
・ 低脂肪
・ よく慣れ親しんだ飲食物
・ 低繊維質
・ 多くの水分を含む
まる1日続くレースの前の食事は重要だ。これにより筋肉は増強し、肝臓にグリコーゲンが蓄積し、水分量を最適化し血糖値が維持される。メインとなる多めの食事は出艇3?4時間が最適で、少な目の軽食は出艇1?2時間前でもよい。炭水化物を体重1kg当り2?4g摂取できる食事は、炭水化物を増大させることでレース中の疲労を減らすのに役立つ。最も快適と思えるようなものは何か、量はどれくらいか、トレーニングの間に試してみよう。
もしレースが不安で落ち着かないのなら、液状のサプリメントまたは自家製のシェイクが、固体の食物より速く腸から吸収されるので、最もよい選択だ。表11-3は、適当なレースの前の食事と軽食の例だ。炭水化物摂取量は、消費された食物と果実の量に依存します。レース前の食事の炭水化物内容を計算するには表11-1を参照のこと。
表11-3 レース前の低脂肪、高炭水化物食
シリアルまたはポリジとローファット・ミルク、フルーツ パン、トースト、マフィン、ホットケーキにジャム、蜂蜜、シロップ、フルーツジュース パンケーキにメープル・シロップ、ジャム、レモン、蜂蜜、フルーツジュース、スムージー(ヨーグルトドリンクやミルクドリンク) べイクド・ビーンズ(繊維質が必要な場合)、スパゲティとトースト ローファットミルクか豆乳のフルーツドリンク、フルーツ、低脂肪ヨーグルト サプリメントドリンク バナナ、ジャム、蜂蜜などの低脂肪食品のサンドイッチかロール 低脂肪のソース(トマト・ソースなど)を添えたご飯、麺類、パスタ シリアルバー、スポーツバーとスポーツドリンク フルーツと低脂肪フルーツヨーグルト
グリコーゲン貯蔵量と水分摂取状況は、24?36時間前からの食事と運動による。したがって、レース前1、2日間のトレーニング量の減少による相対的な炭水化物摂取量の増加は、燃料を満タンにするのに役立つ。レガッタの数日前は体重1kg当り9-10g の炭水化物摂取量をめざそう。この間は、かさがなく低繊維の炭水化物食品および流動食を利用すればより高い炭水化物目標量が達成される。また、少量で頻繁な食事は、胃腸の不快感を少なくする。炭水化物の豊富な飲み物(たとえば、果汁、スポーツ・ドリンク、コーディアル、清涼飲料、または市販されている炭水化物ローディング・パウダー)は、炭水化物および流動物の摂取を同時に達成するのに特に有益だ。それは、レガッタ直前2、3日の、低炭水化物食物(たとえば肉または非デンプン質の野菜)のようなタンパク質の多い食品摂取を減らすのにも役立つだろう。炭水化物が豊富な食品をまず優先することが大切だ。
体重80kgの選手がレースで必要とする炭水化物量は、1日に720?800g(表11-1で24?27単位×30g)だ。さらに1日あたり以下の量を付け加えれば食べる量をそれほど増やさずに先のサンプル食事プラン(600g《20単位》?800g《27単位》)の炭水化物量を増やすことができる。
・1.5カップの果汁 (1単位《炭水化物30 g》)
・ 清涼飲料1缶(1単位)
・ジェリービーンズ50 g (1単位)
・ジャムまたはハチミツをたっぷりと塗ったサンドイッチ(1単位)
・炭水化物ローディング・パウダー4.5スプーン(3単位)
水上での食事
筋肉中のグリコーゲンの蓄えは、高度の陸上トレーニングをちょうど90?120分すると枯渇してしまう。セイリングでは炭水化物の蓄えがなくなるのにもう少しかかるかもしれないが、レースの間に突然枯渇してしまう恐れもある。もし疲労でパフォーマンスが急激に低下することを防ぎたければ、セイリング中に追加的な炭水化物をとれるようにしておくことが必要だ。
レース中は、1時間ごとに30?60gの炭水化物を摂取するよう計画すること。固形物でも流動物でもよい。1時間あたり900?1000mlのスポーツドリンクを飲むと、多くの水分と50?60gの炭水化物の補給となり、適正な水分を保持できる。レース中の固体食物は腸の不調を起こすかもしれないが、少量であれば空腹感もなくなり、炭水化物を摂取できる。固形の炭水化物はまた、よりコンパクトで(たとえば、シリアルバー、スポーツ・バー、および炭水化物ゼリー)、ライフジャケットまたはマストにテープで貼っておいたり、サポートボートに置いてすぐに食べれるようにしておくことができる。
写真11-3 高炭水化物食品をテープでマストに止めておけば、
レース中の燃料となる食品をとりやすい
レースの間に十分な炭水化物補給をするためには、計画が大事で、つまり事前に必要摂取量を計算し、あなた(またはサポートボート)が適量の食物と流動物を水上に持ってくることが必要になる (写真11-4)。
写真11-4 写真の食品で、セイラーが7時間に消費する420gの炭水化物が摂取できる。
いずれも炭水化物が凝縮された食品で、場所を取らず、防水・防腐パックされている
シンガポールのクラブセイラーについて研究した結果、セイラーの栄養摂取状況が現在のスポーツ栄養学で推奨されているものと比較して不足していることが明らかとなった。水上における6時間30分(そのうちレースに3時間30分)の間の炭水化物摂取量は平均で17g(範囲は0から110g)、つまり1時間あたり3gで、推奨される60gを大きく下回っていた。半分以上のセイラーがレースが午前中なかばから昼食のずっとあとまであるにも関わらず、炭水化物を含む食物や流動物を全く摂取していなかった。そのようなやり方では確実に疲労は悪化し、レースの間の体力回復の可能性もなくすことになってしまう。
体力の回復
一貫した結果を得るためには、次の日のレースの前に筋肉に燃料を再補給し、水分を回復させることが極めて重要だ。レース後すぐに多くの炭水化物豊富な飲食物を取ることにより、次のレースまでにグリコーゲンと水分量が回復する。
筋肉と肝臓グリコーゲンを復元する時、最も重要なのは炭水化物摂取だ。1日体重1kg当たり約8?10gの摂取をめざすこと。炭水化物摂取のタイミングもまた重要。グリコーゲン生成率は、炭水化物が消費されるまで低いレベルのままだ。したがって、個々のレースの後に炭水化物豊かな軽食をできるだけ早く摂取すること。レース終了後、着艇までの間に回復プロセスを開始したほうがよい。最後のレースの後にまっすぐ帰るのではなく、サポートボートに寄って食物と水をもらって途中で摂取する。これが難しければ着艇後すぐに炭水化物を補給すること。体力を消耗したあとはふつう食欲はないので、コンパクトで小さな炭水化物豊かな食物と飲み物を利用しよう(たとえば、スポーツ・ドリンク、うすめたジュース、清涼飲料、液状のサプリメント食品または炭水化物ローディング・パウダー、シリアルまたはスポーツ・バー、砂糖ベースの菓子)。
流動物の選択は個々の好みによって変わるかもしれないが、スポーツ・ドリンクのようなナトリウムまたは塩分を含むものは、特に水分吸収を高めるので、回復のため有益だろう。
1日のセイリングの間の回復を最大化するために次のようなことを心がけよう。
・1日にわたって高炭水化物摂取を維持する。体重1kg当たり約8?10gの炭水化物摂取をめざす。
・ 練習のあとはなるべく早く炭水化物豊かな食物または流動物をとること。練習終了後の最初の30分は体重1kg当たり1?1.5gの炭水化物を摂取し、食欲が戻り正常な食事パターンになるまで2時間ごとにこれを繰り返すことをめざす。
・コンパクトで小さな炭水化物食品の利用。
・水分摂取の判断をのどの渇きに頼らないこと。飲み物の不足量を計算し、不足量の150%の飲み物をとる。または、尿が透明になるまで飲むこと。
・脱水のときにはナトリウムを含む食物または飲み物を取ること。スポーツ・ドリンクには少量のナトリウムを含んでいるが、塩分は飲み物から取らなければならないということはない。塩分は、摂取された食物から引き出すことができる。適正な炭水化物、ナトリウム、および水分を持つ回復用軽食の例は、果実、ヨーグルト、およびスポーツ・ドリンク/低脂肪肉または低脂肪チーズを挟んだサンドイッチと清涼飲料または水/ 野菜、肉、およびソースのかかったヌードル、米、パスタと強壮剤またはジュース。これらの組み合わせのそれぞれは、回復を補助し、毎日の必要摂取量となる少量のタンパク質も含んでいる。炭水化物摂取が優先とはなるが、毎日のタンパク質必要量は摂取されていなければならない。回復用軽食・食事にタンパク質豊かな食物を少し加えれば、すべての必要栄養素を満たすことができる。
・アルコールおよびカフェインを含む飲み物(コーラ、お茶、コーヒー)は、水分の損失を促進するので、回復の間は避けるべきだ。
・岸に帰る際に回復が開始できるように、回復用軽食を食物と飲み物を用意しておくこと。セイリング・クラブではそれぞれの人の目的に合った食べ物と飲み物を得ることはできるとは限らないので、自分に適した回復用軽食を用意する必要がある。
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