11.セイラーのための栄養学
文=Gary Slater


現代のアスリートは、パフォーマンスに影響を及ぼすさまざまな要因について熟知していなければならないが、その中でも必要栄養素についての知識は必要不可欠なもののひとつだ。飲食物はセイリング能力に大きな影響を与えるからこそ、計画・準備が必要となる。レーザーセイラーは限られた飲食物だけで6時間以上も洋上で過ごすさなければならないのだから、それにふさわしい栄養に関する戦略を持っていなければならない。数日間のレースでは、体力回復の戦略も必要となり、さらには最適体重の範囲を狭くすることも考えていかなければならない。

トレーニング向け食事?栄養摂取の基盤


 私たちが必要とする栄養素をすべて、しかも正しい分量だけ含む魔法の食べ物など存在しない。むしろ、毎日のトレーニングの栄養源を提供するために多種多様な食物を選ぶ必要がある。トレーニングのためには、炭水化物、タンパク質、飲み物などの栄養分とエネルギーが追加的に必要となる。ちょうどワットという単位で電気のエネルギーを測定するように食物のエネルギーはカロリーまたはキロジュール(kJ:1カロリー=4.2キロジュール )で測定される。カロリー/kJは、食事により得られる炭水化物、脂質、およびタンパク質で供給される。アルコールにもカロリーは含まれるが、脱水および他の有害なリスクをももたらす。それぞれに含まれているエネルギー量は異なる:
・炭水化物=4カロリーまたは16kJ/g
・タンパク質=4カロリーまたは17kJ/g
・脂肪=9カロリーまたは37kJ/g
・アルコール=7カロリーまたは29kJ/g

 なにもせずにただ座っていたり、さほど激しくない運動の間は、体が燃料として使うのは炭水化物と脂肪の組み合わせであるが、運動が激しくなるにしたがって、主として筋肉、肝臓グリコーゲン(体内での炭水化物の貯蔵形態)および血糖を補うために炭水化物の摂取が必要となってくる。最も激しい運動の時には、ほとんど炭水化物だけが消費される。非常にやせたスポーツ選手でも適正な脂肪は蓄えているが、炭水化物はすぐになくなってしまう。

炭水化物
 炭水化物が豊富な食事には多くの利点がある。それは筋肉と肝臓グリコーゲンの貯蔵量を増加させ、トレーニングとレースの原動力になる。さらに、炭水化物豊かな食物は、一般的に毎日のビタミン、ミネラル、および繊維質摂取に大きく寄与する栄養の濃いものでもある。多くの炭水化物豊かな食物は、たんぱく質を適量含んでいる。それらは食欲を最も満足させ、一般に脂肪分も低い傾向があるので、体脂肪レベルをコントロールするのに役立つ。こうした理由で、炭水化物豊かな食物は食事計画の基礎とするべきだ。表11-1は、30gの炭水化物を得るために必要な栄養的のある炭水化物を豊富に含む食物のリストである。

表11-1 炭水化物の豊富な食物。どの項目を摂取しても約30gの炭水化物を得られる。

食物/飲み物 量炭水化物豊富な食物
1/2カップ
麺類/パスタ 2/3カップ
パン/フルーツローフ 2枚
ロールパン 中くらいのを1つ
クランペット 1+1/2
イングリッシュ・マフィン
ベイクドマフィン 1/2の大きめ
ライスケーキ 3枚
ポテト 中くらいのを2つ
コーン 1カップ
ブレックファースト・ビスケット 3枚
フレーク・フルーツシリアル 1カップ
クックト・オーツ 11/2カップ
ソラマメ/ベークト・ビーンズ 1カップ
シリアル・バー 1本
ムエスリ バー(*1) 1+1/2本
フルーツサラダ 2カップ
リンゴ/なし 中くらいのを2つ
オレンジ/マンダリン 大きいのを2つ
バナナ 中くらいのを1本
乾燥フルーツ 1/2カップ
ミルク 2+1/2カップ
フルーツヨーグルト(*2) 200g
フルーツジュース 1+1/2カップ
リファインされた炭水化物食品  
ジャム/蜂蜜/シロップ ティースプーン2杯
砂糖 11/2カップ
チョコレート(*1) 50g
アイスクリーム(*1) 6すくい
ポテトチップ(*1) 1カップ
Jubes/ジェリービーンズ 50g
ジェリー 3/4カップ
ソフトドリンク 1缶(335ml)
Cordial 1+1/2カップ
Ice Block
スポーツ栄養サプリメント  
スポーツドリンク 2カップ  
炭水化物ジェル 1-11/2カップ
High Carbo(ドリンク) 2/3カップ
スポーツバー 2/3本
Carbo.Loader Powder ティースプーン 11/2

出典:NUTTAB 1995、AustralianDepartmentofCommunityServicesandHealth
*1:高脂肪のものを選択。*2:低脂肪のものを選択。
必要な炭水化物の量は?

 多くのスポーツ選手が高炭水化物の食事の価値を認識しているにも関わらず、そのほとんどは絶対的な炭水化物必要摂取量やそれをどのように達成するかを理解していない。個々の炭水化物必要量は体重と活動レベルに依存して変化する。しかし、体重1kgあたり毎日6?10gの炭水化物の摂取をめざすべきである。1、2時間、の陸上でクロストレーニングをするだけでも体重1kgあたり6?8g/kgの炭水化物摂取を必要とする。レースでは体重1kgあたり9?10g/kgまでの炭水化物摂取が必要となり、これはまる1日のセイリングの間に費やされる炭水化物の量に匹敵する。この炭水化物摂取量を達成するためには、全エネルギー摂取の65?70%までを炭水化物にする必要があるかもしれない。セイリングの間は、飲食物をおくスペースも限られるので、このように必要となる炭水化物摂取を増やすのは非常に大変なことである。これは「レースへの準備」で詳しく述べる。

必要な炭水化物の計算

 たとえば、1週間に5?6日間のトレーニングをする体重80kgの男性を例にとって考えてみる。
 1日あたり1?2時間のトレーニングをするならば、炭水化物必要量は1日あたり480?640g(=6?8g/kgx80kg)か、あるいは表11-1から16?21単位×30gの炭水化物豊かな食物に相当する。レースの時は、必要炭水化物は1日あたり約720-800g、つまり24-27単位×30gの炭水化物となる。以下の食事計画〈表11-2〉は、600gの炭水化物、つまり20単位の炭水化物量となる:

食事 食物及び飲み物 炭水化物(1単位=30g)
朝食 シリアル2カップ、ミルク1+1/4カップ、バナナ1本、オレンジジュース1+1/2カップ 4+1/2
朝の間食 200g入りの低脂肪ヨーグルト、乾燥フルーツ1/2カップ
昼食 ヌードル2カップの入ったヌードルスープとりんご 3+1/2
昼の間食 ジャム/蜂蜜のついたサンドイッチ
トレーニング時 スポーツドリンク 1000ml
ディナー 低脂肪肉(*1)、野菜(*1)と調理ライス2カップの炒めものと飲み物(cordial)1カップ
夜食 フルーツサラダ2カップとアイスクリーム1すくい

*1:肉と野菜には炭水化物は多く含まれてはいないが、バランスのとれた食事に重要な栄養素が含まれている。動物の肉かベジタリアン向け代用肉と野菜は毎日摂取するとバランスのとれた栄養価の高い食事プランになる。


写真11-1 600gの炭水化物を含む食事プラン例。
低脂肪肉、チキン、シーフード(またはベジタリアン代用物)と
多くの野菜を加えると1日に完璧な栄養をとることができる。

炭水化物摂取量と処方量とのチェック:
以上で説明した方法で計算する。
・1日に消費した全ての飲食物を記録する。
・それぞれの食事/間食から炭水化物単位量を計算する。そしてその数字に30を掛けることで炭水化物の合計摂取量をグラムで算出する。
・この量を例として推奨されたものと比較する。
必要炭水化物量達成のために。
 必要炭水化物量に満たないと、グリコーゲン貯蔵量は減少し、早く疲労感を覚え、そして回復が遅れる。これを回避するために、以下のヒントを活用すること:
・ヌードル、米、パスタ、パン、その他小麦粉ベースの食物、シリアル、果物全て、豆、およびデンプン質を含む野菜といった栄養的な炭水化物豊かな食物をすべての食事と軽食の基礎とする。これらの食物でお皿のほとんどをいっぱいにすること。ベストなのは、こういった食べ物を食事の最初に出すことであり、こうすることで少なくともお皿の半分がこの種の食物であることを確認する。
・野菜は非常に栄養があるが、ジャガイモとトウモロコシだけが多くの炭水化物を含んでいる。従って、野菜中心の食事には炭水化物豊かな食物、たとえば米、ヌードル、およびパンといったものを加えるべきだ。
・毎日、炭水化物豊かな軽食を食事計画に含めること。1日3食の中で必要炭水化物量を達成することは非常に難しい。サンドイッチ、果実入りパン、シリアルバー、フルーツヨーグルト、フルーツやドライフルーツ、低脂肪の果実スムージー、ホットケーキ、およびスコーンは、非常に良いチョイスです。
*ジャムや蜂蜜のような精製された炭水化物食物も少し取ること。炭水化物が非常に凝縮されたものとして、食事のかさを増やさずに全体の炭水化物摂取量インテークを増加できる。これらは、非常に高い炭水化物を必要とする、つまり筋力トレーニングプログラムの最中のアスリートには特によいチョイスだ。
*スポーツドリンクあるいは薄めたシロップのような炭水化物飲料を利用する。特にトレーニングの間は、炭水化物と喉の渇きを癒してくれるので有益だ。
 運動の前後あるいは運動中の炭水化物摂取は、最大の能力を発揮するために重要だ。これについては「レースの準備」の項で説明する。


タンパク質
 タンパク質は、食事の標準部分であり、動物性および植物性食物の中に幅広く含まれている栄養素だ。以前は、タンパク質が運動中に使われる主要なエネルギー源であると一般に考えられていた。現在では、炭水化物と脂肪が主要なエネルギー源であることがわかっているが、それでもタンパク質は身体の中で多くの大事な役割を果たしている。
 食事から摂取されるタンパク質は2つの役割を果たす。それは体内組織の成長・回復に使われ、また、炭水化物や脂肪のようにエネルギーとして消費される。体力的に厳しいクラスであるレーザーセイラーがボートスピードを高めるためには、この成長と回復が非常に重要になる。

 それぞれのタンパク質は、異なるアミノ酸の結合により構成されている。そして、タンパク質摂取の必要性はアミノ酸摂取の必要と同じことだ。栄養素としてのタンパク質は20のアミノ酸から作られている。これらのうちの8つは必須アミノ酸で、体内で作ることはできないので、食事から摂取しなければならない。動物性食品のタンパク質はすべての必須アミノ酸を含んでいる(完全タンパク質)が、植物タンパク質はそうではない(不完全タンパク質)。広範囲のタンパク質を含んだ食品を選ぶことによって、ベジタリアンであってもなくても適量の必須アミノ酸を確実にとることができる。肉と乳製品が特にタンパク質のよい摂取源となるが、多くの植物性食物も多量のタンパク質を含んでいる(図11-2)。
表11-3 動物性・植物性タンパク質を含む食品。それぞれ10グラムのタンパク質を含む。

動物性 植物性
カッテージチーズ70グラム 全粒小麦パン100グラム(約3枚)
チーズ40グラム 朝食用シリアル90グラム
卵(中)2個 ベイクドビーンズ220グラム
牛肉、ラム肉、鶏肉30?35グラム 豆乳300ミリリットル
魚50グラム 平豆150グラム
液体栄養補助食品150ミリリットル 豆腐120グラム
ヨーグルト200ミリリットル 炊いたご飯2カップ
牛乳300ミリリットル ナッツ50グラム

ソース:NUTTAB 1995年、AustralianDepartmentofCommunityServicesandHealth
どのくらいのタンパク質が必要か?
 筋肉のタンパク質は絶え間なく作られ分解される。このタンパク質のいくらかは身体の中でリサイクルされるが、残りは食事から摂取しなければならない。一般に推奨されているタンパク質の摂取量(RDI)は、1日あたり55gまたは体重1キロあたり1g弱となる。筋力と持久力を必要とするスポーツ選手は、運動をしない人よりも多くのタンパク質を必要とする。筋力を必要とするスポーツの選手は、1日に体重1キロあたり1.6?1.7g(RDIの約2倍)を、持久的なスポーツの選手は同約1.2-1.4g/kg(RDIの約1.5倍)を必要とする。セイラーは筋力と持久力を混合したトレーニングを行うので、一日単位で体重1キロあたり1.4?1.6gのタンパク質摂取が適正だろう。

 ほとんどのスポーツ選手は多くの食物摂取をするので十分なタンパク質摂取ができているが、これは通常の場合、必要量を十分に上回っている。トレーニングの追加的エネルギーへの必要性から食物摂取が増えると、追加的に必要となるタンパク質は、全体のエネルギーの12?15%をタンパク質として摂取することで簡単に達成できる。国体レベルのレーザーセイラーを例にとると次のようになる。
体重=80kg
エネルギー必要量=1日あたり16,000kJ(3,820カロリー)
タンパク質必要量=通常の食事により、タンパク質からエネルギー必要量の12?15%(1,920-2,400kJ)をとることができる。1グラムのタンパク質には17kJが含まれているので、これは113?141(=1,920/17;2,400/17)グラムのタンパク質、つまり体重1キロあたり1.4-1.8グラムのタンパク質に相当し、追加的タンパク質必要量を適切に達成できる。.

 全ての必要栄養素を含んだ高炭水化物と適量のタンパク質の食事は、注意深く食物を選択することで容易に達成できる。多くのタンパク質豊かな食物は、カルシウム(ミルク、チーズ、ヨーグルト)と鉄分(肉、魚、チキン)といった優れたミネラルの源でもある。毎回の食事と軽食に、少量のタンパク質豊かな食べ物を摂取するようにしよう。たとえば、ミルクをかけたシリアル、ヨーグルト、薄切りの冷肉、あるいはチーズサンドイッチ、薄切りの肉・魚・鶏肉あるいはベジタリアン用の代用食品を夕食と一緒にとる。この単純な目安によって、適量のタンパク質摂取が保証される。

 タンパク質の摂取が不十分だと、筋肉の減少、回復の遅れをもたらし、これがしばらく続くとひいては重大な健康障害をもたらす。タンパク質をほとんど摂取しないことで、危険な状態にあるスポーツ選手はほとんどいない。しかし、間違った理解をしているスポーツ選手は、タンパク質豊かな食物を過量の炭水化物と取り違えることで、こうしたリスキーな状況に追い込まれることもある。また、低カロリー食を実践しているスポーツ選手は、タンパク質摂取不足の危険があるし、低カロリー食のタンパク質は筋肉のエネルギーとして使われてしまい、筋肉の回復・成長のためにはわずかしか残らない。

 激しいトレーニングをするセイラーは、活動的でない人より多くのタンパク質摂取を必要とするのたしかだが、誤った理解をしたボディビルダーや雑誌に影響されて大量のタンパク質を摂取しても意味がなく、パフォーマンスを高めるのに役立たないこともある。大量のタンパク質を含んだ食事は、脱水症状をもたらし、また身体からカルシウムを奪い、摂取した他の重要な栄養素が入れ替わってしまうこともある。タンパク質豊かな食物は、一般的に高価であり、なかには脂肪で動脈を詰らせる主要な原因となることもある。過剰に摂取されたタンパク質は貯蔵されず、炭水化物や脂肪と同様に、エネルギー源として使われる。

脂肪
 食事における脂肪は、最も広く議論されているが、まだ十分に理解されていない栄養素のひとつだ。脂肪1グラムあたりのエネルギーは、炭水化物とタンパク質の約2倍あり、脂肪は凝縮したエネルギー源で、健康を維持するのに必須の脂肪酸と脂溶性ビタミンを供給する。脂肪は、多くの食物の風味と組織も高め、調理を簡単にする。脂肪はバランスの取れた食生活にとって必須の要素だ。

どのくらいの脂肪が必要か?
 多くの人々にとっては、脂肪摂取不足よりも取り過ぎの方が関心事だ。脂肪の取り過ぎは、体重増加や心臓病や癌といった生活習慣病を引き起こす可能性がある。スポーツ選手にとって何より気がかりなのは、高脂肪の食事によって炭水化物摂取が制限されてしまうことだ。脂肪からのエネルギー摂取が30%以下の食事を選ぶことで、栄養素としての脂肪の必要量を満足させ、炭水化物の摂取を減らすことなく、脂肪に付随する栄養素の必要量を摂取することができる。以下の目安は、過度の脂肪摂取を制限するのに役立つ:
・低脂肪の調理法を選ぶこと、たとえば焼きもの、乾燥、あるいは軽く炒める、網焼き、電子レンジ、蒸す、ポーチングなど。これらの調理法は全て、脂肪や油を加えずにあるいはごく少量の油で可能だ。軽く炒めるときは、こびりつかない鍋を選び、スプレー式の油を使う。
・肉や鶏肉は薄切りを選ぶこと。調理する前にすべての脂肪を取り、鶏肉の皮は取り除く。肉を買う時には、霜降りでない切り身を探すこと。
・多くの食物に添加されている脂肪に注意すること。パンについたバター、マーガリン、またはマヨネーズ/オイルベースのサラダドレッシング/缶詰の魚や肉の油/ソースの中のクリーム(ココナッツまたは乳製品)。これらは少量使うか、あるいは低脂肪の代替物、たとえばオイルフリー・ドレッシング、低脂肪のマヨネーズ、ココナッツエッセンス入りスキムミルク、水煮または塩水漬けの魚の缶詰を使ったものに変える。
・ローファットの乳製品など多様な低脂肪食物があるのでそれを利用しよう。
・「コレステロールフリー」、「脂肪分控えめ」、または「ライト」といった誤った宣伝・食物ラベルに気をつけよう。食物ラベルをどう読むかを学ぶことによって、よりよいチョイスができる。
・外食をする時には、低脂肪のオプションを選ぶ。もし海外でレースしている場合、または忙しいライフスタイルのためにテイクアウトを多く利用している場合に、これは特に重要となる。ヌードル、米、パスタを中心として、これに健康的な量の野菜、薄切りの肉、魚、またはチキンを加えるのがよい。揚げ物、クリームあるいはサティソース(沙茶醤)、あるいは大量のオイルをは避けること。
・高脂肪スナック、たとえばポテトチップス、コーンチップス、ナッツ、チョコレート、ビスケット、ケーキのようなものは少量にとどめること。食間のスナックは高脂肪のものよりも、むしろサンドイッチ、フルーツパン、果実、シリアルバー、スコーン、低脂肪のマフィン、および低脂肪の果実ヨーグルトといった高炭水化物、低脂肪のものが望ましい。

水分
 水に囲まれてのエクササイズにもかかわらず、1日を通じセイラーが汗をかく量は多く、したがって必要な水分量は高い。これは、熱い夏、または運動量が多くなる風の強い日は、特にあてはまる。エクササイズで汗をかくことによる水分の減少を考えなくても、平均的な人で1日あたり約2リットルの水分を必要とする。汗をかくことは、体の余分な体熱を放出する最も重要な方法であり、これはエクササイズの程度と環境に影響される。基本的には、暑ければ暑いほど、そして激しくエクササイズをすればするほど、より多く汗をかく。発汗量は個人差があるが、この放出量を適量のドリンクの摂取で補うことが最も重要な能力である。これがうまくいかないと脱水症状を引き起こし、体内の水分量は正常時よりも低下する。
 脱水症状は次のような問題を起こす。
・運動持続能力の低下
・体温調節能力の低下による、熱痙攣、熱射病、および日射病の危険性
・精神的機能とスキルの統合能力、そして努力しようとする気持の低下
・胃腸の機能低下、嘔吐の危険性、水分吸収率の低下。したがって、脱水症状を引き起こした場合、水分不足を解消するのがいっそう難しくなる!

 中程度の脱水症状(体重2%分の水分以下)でさえ運動能力に悪影響を与えることがあり、脱水症状が進めば進むほど能力はますます低下することになる。

 多くのスポーツ選手は自発的に水分を取っているが、これは発汗による水分の減少の3分の2も回復することができない。ほとんどの人は喉の渇きによって水分の必要性を判断しているが、これは大変不十分な目安だ。ある程度の脱水症状が起こるまで、喉の渇きを覚えないこともよくある。

どのくらいの水分が必要か?
 シンガポールスポーツ医学研究センターは、最近、温暖で湿度の高い(気温29?31度、湿度73?82%、平均風速6ノット)中でのクラブセイラーの練習を観察した。6時間30分にわたる水上練習(内、レースは3時間30分)で、グループは平均1.6%の脱水状態を起こした。さらに、グループの約30%は、体重の2%を超える脱水を招き、これは能力を低下させるのには十分なものだ。観察された脱水症状は1日あたりわずか900ミリリットルの水分(内2人は500ml)という低い水分摂取量によるものだ。これは全て風速6ノットという穏やかな条件下でのことだ。風力の増加は確実に運動量、すなわち発汗やより高水準の脱水症状の可能性を増大させる。

水分の必要量を満たすには
 1日のセイリングの間中、水分を保つには適正な戦略が必要だ。ここで考慮されなければならないこととして、レース中は水分を取る機会が限定されること、そして貯蔵スペースが制限されていることだ。セイリングの間、十分水分を保っていられるように、以下の目安に従うこと(写真11-2)。
・前のセイリングセッションで失われた水分を補給したことを確かめて、よく水分を保った状態で次のセイリングを始めること。レース前の15?30分に適量(体重1キロあたり約5ミリリットル、つまり体重80kgのセイラーは400ミリリットル)の水分を摂取を試みる。これによって水分の吸収力が最大化されるだろう。スポーツドリンクは、少量の塩分を含み、これは摂取された水分の吸収と保持を助ける。


写真11-02 レース中の水分補給。
定期的に少量(15分ごとに150?250ml)の水分を補給すると
水分吸収の効率がよく、腹痛も防ぐことができる

・水分摂取と汗の排出が適合するように、早めにそして一定の間隔を空けて水分補給をすること。わずかなトレーニングで、1時間あたり600?1000ミリリットル、あるいは15分ごとに150-250ミリリットルの水分で耐えることができるはずだ。スタート前、あるいはレース間の休憩時間を有効に活用しよう。もし、レース中に水分補給することが不可能であれば、レースとレースの合間で摂取することがより重要となるだろう。こうした場合には、300?500mlの水分で満足できるようにしなければならない。
・セイリングしている間1日を通して、水分が十分なよう確認すること。レースの際、750?1000ミリリットルのドリンクボトル1本を携帯しておくのがよいだろう。いつでも水分供給ができる場所に置いておけば、ドリンクボトルが見えることで常に水分補給への注意喚起にもなる。
・スポーツドリンクを利用しよう。スポーツドリンクは水分と炭水化物を同時に補給できるからだ。さらに、スポーツドリンクの方が水よりもおいしいので、十分な水分をとりやすく、脱水症状の可能性を減らす。スポーツドリンクに含まれている少量のナトリウムは、味を高め、飲もうとする誘引となり、消費された水分の補給を促進する。飲み物をクーラーボックスに入れ、冷却(15?22度)しておくことも、味を高めることになる。
・セイリング前後の体重を測定すること。1回のセッションでの体重減少は、水分不足が累積していることを意味する。たとえば、2kgの体重減少は2Lの水分不足と同じである。水分不足は常に1キロ以下ととどめなければならない。回復のためには、いかなる水分不足も失われた量の150%を補給しなければならない。これは、発汗と尿生成を考慮したものだ。
 同様のガイドラインは、陸上トレーニングにも適用できる。新たな食事法についてと同様、トレーニング中の水分補給に関する実験をすること。これによって、自分が許容できる水分量がどのくらいか示してくれる。